こんにちは。
事業再生支援グループメンバーの弁護士の柚原です。
暫定リスケ(利払のみ継続)から一歩踏み込んだステップとしての事業再生方法のバリエーションと、どのような場合にどの方法を選択するかについてご説明します。
事業再生方法のバリエーション
事業再生方法のバリエーションの概要は以下のとおりです。
「私的整理」について、従前の私的整理は、裁判所は一切関与せず、債務者と債権者が相対で交渉するものであり、示談屋が跳梁跋扈した時代もあったそうです。昨今の私的整理は、ガイドライン(準則)に基づく、中小企業再生支援協議会が関わる等、従前の純粋な私的整理より手続の透明性が確保されており、また、出口としての権利変更(債権の圧縮)の手法として特別清算や特定調停等の裁判所の手続を利用します。
「会社更生」は、抵当権等の担保権も拘束できる強力な手続ですが、日本航空(JAL)等の大きな会社に適し、中小企業には不向きです。
「私的整理」と「民事再生」の主な違い
上記の方法のうち、ともに再建型である「私的整理」と「民事再生」の主な違いは以下のとおりです。
私的整理 | 民事再生(法的整理) |
---|---|
対象債権者を限定できる
(金融債権者のみを対象) ⇒事業価値があまり毀損しない |
全債権者が対象
(商取引債権者を含む) |
対象債権者全員の同意が必要 | 多数決 |
一般に「倒産」とは称されない | 一般に「倒産」と称される |
また、「私的整理」「民事再生」を含む再建型の債務整理手続では、事業譲渡を実施することも多くあります。
事業譲渡を伴う債務整理を理解するためのポイントは、以下の4点です。
- 「法人格」は「器」、「事業」は「中身」
- 中身である「事業」の譲渡は「事業譲渡」、器である「法人格」の譲渡は「株式譲渡」
- 「債務」は、中身である「事業」ではなく、器である「法人格」に付着
- 「優良事業」を別会社に移し(事業譲渡代金を受領)、「過剰債務」「不採算事業」は「器」とともに清算する手法を「第二会社方式」という
このように、優良事業を別会社(第二会社)に譲渡して残すことにより、雇用や地域経済への影響を最小限に抑えます。
なお、産業廃棄物処理業や酒造業など許認可に価値がある場合、許認可は法人すなわち「器」に付随するので、許認可を維持したい、つまり法人(器)を残す必要がある場合は、第二会社方式は適しません。ただし、この場合でも、「中小企業再生ファンド」という中小企業の事業再生を目的とした官民ファンドを利用して事業再生を図る方法もあります。
私的整理に適する案件、適さない案件
私的整理に適する案件、適さない案件の主な判断要素は以下のとおりです。
私的整理に適する | 私的整理に適さない |
---|---|
過大な金融債務が窮境原因 | 事業自体に窮境原因がある |
事業性を有する部門がある | 事業全体が傷んでいる |
資金繰りに多少の余裕がある | 資金ショート間近 |
粉飾決算がない | 悪質な粉飾決算がある |
全行同意が得られる見込み | 反対見込みの金融機関あり |
メインバンクが再生に積極的 | メインバンクが消極的 |
金融債権者数が少ない | 金融債権者数が多い |
事業はBtoCがメイン
ブランド価値≒企業価値 |
暫定リスケ(利払のみ継続)から一歩踏み込んだ対応を行う必要があり、かつ、私的整理に適する場合は、法的整理ではなく私的整理を行うべく、税理士・弁護士に相談しましょう。
また、本来は私的整理に適する会社でも、検討・判断が遅れたことにより法的整理を余儀なくされる場合もあります。最終的な判断は十分に検討してからでよいので、検討・相談は早めに行うことをおすすめします。