コロナ融資の元本弁済(返済)開始時に考えること

事業再生支援グループの税理士の近籐です。

元本の弁済の猶予を設定できるいわゆるコロナ融資について、多くの借入企業が1年間の弁済猶予を設定しているようです(コロナ融資を受けた企業全体の60%近い企業が同期間で設定していると言われています)。そこで、いよいよ2021年夏以降、元本の弁済を開始する企業が増加してくることが見込まれています。その際、企業はどのような対応が必要か整理しておきます。

 

1 現状の環境とコロナ融資

現在、新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)により企業運営は大きな影響を受けています。その影響は財務上の悪化を引き起こすケースも多く、飲食業、イベント業、旅行(宿泊)業に限らず、多くのサービス業さらには建設、製造、流通と様々な業種において企業のキャッシュを目減りさせています。コロナによる経済への打撃、企業財務への圧迫は、残念ながら今後勢いよく改善すると楽観視はできず、業種や業態によるものの、今後もこのような状況が継続するとの分析もされています。このような中多くの企業が日本政策金融公庫によるコロナ特別貸付をはじめとする、売上高の減少要件をもとに、実質無利子、長期償還期間設定、元本弁済猶予期間の設定などを特徴としたいわゆるコロナ融資を利用しています。

これらコロナ融資は、資金が緊急に必要であった企業はもちろん、今後の資金不足を予想し、実質無利子であることから、緊急事態に備えるために借入を起こし、ストックしている企業もあります。後者においては、返済期間が始まるまでは資金をストックしておくが、返済が開始にあわせ、繰り上げ返済することを計画している企業も多くあるでしょう。これは返済開始頃には経済環境がおよそ予想できる状況にあると想定していたためであり、その予想の多くは、コロナによる影響は終息しているというものであったと言えます。しかしながら2021年9月現在においては、その多くの予測に反し終息したとは言い難く、経済状況の回復も見通しが立っているとは言い切れない状況です。企業のコロナ融資後の対応に迫られているのが現状です。

現在のコロナ融資後の中小企業の現状は以下に整理されます。

  1. コロナ融資で得た資金を運転資金に回し、当該資金を使い果たしている。
  2. コロナ融資で得た資金を運転資金に回しているが、まだ一定量のストックがある。
  3. コロナ融資で得た資金はほとんど手つかずに残っている。

このような中、企業は、事業の継続、再生を行う必要があり、以下の点につき検討する必要があります。

 

2 追加融資に向けての対策

前項における①②のような企業においては、追加資金の確保を念頭に置く必要があります。そのためには、財務諸表(決算書)の改善が必要です。コロナ禍の経済環境下においては、企業の経営成績が充分に成り立たない状況があるという認識が広く存在することから、赤字決算でも問題ない、ともすると今が損出しのチャンスとばかりに税負担を過度に軽減することでキャッシュアウトフローの減少をはかろうとする企業もあるようです。当然ですが、このような行為は積極的に企業の財務評価を悪化させ(格付けの降下)、追加融資の可能性が低下し、場合によってはリスケジュール(元本弁済の停止を含めた返済方法の変更)(以下リスケ)交渉が成立しなくなる場合もあります。

財務指標のポイントは自己資本比率と債務償還年数ということになりますが、これらが適正値(自己資本がプラス、債務償還年数が10年以内)にない場合であってもそこに至るための事業計画書を作成し、金融機関に対し財務諸表(決算書)を提出する際は、事業計画書も添付するべきでしょう。当該事業計画書は、金融実務や財務コンサルティングに明るい税理士、会計士と作り上げることが重要です。

 

3 現在の事業内容の検討

コロナを経験し、一部の企業は現在の事業のあり方を検討せざるを得ない状況になりました。業種は同じでも業態を変更しなければならない、または、そもそも業種を変更していかなければならないなど様々な角度での検討が必要となりました。このような企業の状況を後押しするような補助金等の施策も実施されており、前述の②③のような財務状況の企業であれば、その資金を投資にまわすことも考えられるでしょう。

また、このような検討の中で、大きな固定費の存在により財務状況を圧迫された経験から、よりスリムな事業運営を求め、事業規模の縮小を検討する企業もあります。利益率の高い事業のみを活かす、経済環境に影響を受けにくい事業に特化するなども含まれるでしょう。

事業規模の縮小には、固定資産の売却、諸契約の解約、場合によっては従業員の解雇も伴う場合があります。さらに大きな問題は借入金やリース債務(以下負債)の問題です。事業縮小に伴い、利益率は大きくなったとしても現在の負債を弁済できるだけの収支を生むかどうかを考える必要があります。返済原資の計算を適正に行い、それに基づく弁済計画を作成し、債務償還年数を最長でも20年以内に設定し、金融機関と真摯に交渉を行うことが必要でしょう。その場合、専門家も必要に応じて同行することもあると思われますが、代表者の出席は交渉のための重要な要素となります。

 

4 法的再生という選択

前項において事業規模の縮小の検討が必要な場合、負債への対応が重要になると述べました。しかしながら、立案した債務償還年数が長期化してしまう場合があります。その場合、金融機関への交渉を行う以外の選択肢として、再生手続きがあります。例えば民事再生法に従い、法的に(裁判所の介入のもと)負債をカット(減額)してもらうという方法があります。この方法によれば、債務を減額することで債務償還年数3年~10年とすることができ、事業規模を縮小しても企業を再生させることができます。

ここで注意すべきは、これら法的再生手続きでは、給与の未払、社会保険や税金の未払については減額ができません。したがって、これらについては再生手続きにおいても弁済をする必要があります。しかしながら、民事再生手続きを含め法的手続きを行なおうと考える多くの企業は、これらの負債を支払うことができないどころか、そもそも法的手続きを実施すための費用を支払うことができないという状況にあります。資金のある間に行動する必要があるということになるのですが、通常時においては徐々に財務状況を圧迫し、リスケを繰り返し、ほとんど手持ち資金が亡くなった状態でようやく判断を下すため、このような状況に陥りやすくなるケースが大半です。しかしながらコロナ融資後の企業においては、前述における①以外の②③の状況にある企業においては手元資金があります。コロナ融資の返済の開始を考える前に、事業の状況を鑑み、法的再生手続きを実行できるチャンスを失わないために、検討の選択肢に法的再生手続も加えていただきたいと考えます。