こんにちは。
事業再生支援グループメンバーの弁護士の柚原です。
純粋な私的整理でも法的整理でもない、準則型私的整理についてご説明します。
はじめに純粋な私的整理と法的整理（民事再生・破産等）の特徴と利点・欠点を整理します。
純粋な私的整理と法的整理（民事再生・破産等）の特徴と利点・欠点
はじめに純粋な私的整理と法的整理（民事再生・破産等）の特徴と利点・欠点を整理します。
| 純粋な私的整理 | 法的整理 | |
|---|---|---|
| 特徴 | 当事者の交渉による
非公表 |
法律及び裁判所の手続きによる
公表 |
| 利点 | 整理の対象の限定が可能
(金融債権のみを整理する等) |
手続きの公平性・安定性が高い |
| 欠点 | 手続きの公平性・安定性が劣る | 全ての債権が整理の対象となる
事業価値の毀損 |
このように純粋な私的整理と法的整理にはそれぞれ利点と欠点があるところ、第三者機関が関与して、準則に基づいて私的整理を行うことにより、私的整理と法的整理の利点を両方得られるようにしたのが事業再生ＡＤＲ制度です。非公表で、金融債権のみを整理の対象として商取引債権の支払を継続する等を柔軟に行うことができる一方、準則に基づき、第三者機関が関与するため、手続の公平性・安定性も確保されています。
| 準則型私的整理 | |
|---|---|
| 特徴 | 準則に基づく
第三者機関が関与 非公表 |
| 利点 | 整理の対象の限定が可能 (基本的に金融債権のみを対象)
手続の公平性・安定性も確保される 事業価値の維持が図れる |
中小企業版 私的整理ガイドライン
2019年、自動車用ブレーキ部品製造の曙ブレーキ工業㈱が事業再生ＡＤＲ制度を申請し、約560億円の債務免除を得ました。名古屋駅からレゴランドやリニア・鉄道館がある金城ふ頭駅を結ぶあおなみ線を運営する名古屋臨海高速鉄道㈱も、2010年に同制度を利用した債務の圧縮を実施しました。ドラマ半沢直樹のモチーフにもなった日本航空（ＪＡＬ）は、2009年に同制度を申請しましたが、最終的に法的整理である会社更生に移行しました。
ただし、事業再生ＡＤＲ制度は、事業再生計画案の作成には相応の専門知識と労力を要し、また、原則として経営陣の退任が求められる等、オーナー経営者が多く人的資源も限られる中小企業にとっては使い勝手がよいとはいえません。実際、同制度を利用したのは比較的規模が大きな企業が多く、利用件数も、2007年から2020年3月までで、手続利用申請81件（253社）、うち事業再生計画案の合意に至ったのは55件（210社）に限られます。
そこで、政府は、2021年6月に策定した成長戦略実行計画において、中小企業の実態を踏まえた私的整理等のガイドライン策定を検討する方針を掲げました。これを受けて、現在、通称「中小企業版 私的整理ガイドライン」を策定するべく、検討が進められています。当グループも、中小企業版私的整理ガイドラインが利用しやすい制度になるか、どのような状況の法人が利用に適しているか、注視しています。
取引先に迷惑をかけない私的整理による事業再生
当グループでは、民事再生手続に関する書籍を発行していますが、一早く税理士・弁護士にご相談いただくことにより、取引先に迷惑をかけない私的整理による事業再生の可能性が高まります。その一方、ご相談・ご検討のタイミングを逸すると、民事再生手続による事業再生も困難となり、破産しか選択肢がない状況になってしまうかもしれません。また、早期のご相談・ご検討により、自社の強みと弱みをあぶり出して効果的な対策を講じた結果、私的整理すら行わずに事業の再生・強靭化を図ることができるかもしれません。
税理士・弁護士はあなたの会社の味方です。お早めにご相談ください。
