11:経営者保証ガイドライン

・「経営者保証に関するガイドライン」の内容をご説明します。
・手続の留意点として、全ての対象債権者の同意が必要になります。
・経営者保証ガイドラインにおける「一体型」と「単独型」の違いについて
・残存資産として、自宅を残せる場合があります。

社長の連帯保証債務を解消する方法、教えます
~経営者保証ガイドラインについて~

 事業再生支援グループの弁護士の眞下寛之です。
 このページでは、中小企業の経営者が負っている連帯保証債務を整理する方法の一つである、「経営者保証に関するガイドライン」(以下、「経営者保証ガイドライン」)の利用についてご紹介します。
 この経営者保証ガイドライン、あまり聞いたことがない方も多いと思います。また、聞いたことがあるという方でも、具体的な内容までは知らないという方がほとんどではないでしょうか。
 中小企業が金融機関から融資を受ける場合には、ほとんどのケースで、経営者(代表取締役)が連帯保証債務を負うことを約束しています。あまり意識していなくても、経営者は、自分が経営している会社が負担している借入金債務と同額の保証債務を負っていることが多いのです。
 会社が経営不振に陥って民事再生手続開始を申し立て、再生計画案の認可決定を受けて金融機関に対する借入金債務の減免を受けた場合であっても、経営者が負担している保証債務は、法律上は別個の債務となりますので、当然には減免を受けることができません。それでは、経営者が保証債務の減免を受けるためには、経営者個人が破産したり、民事再生をしたりしなければならないのでしょうか。
 このページでは、そのような場合に、経営者が破産や民事再生をすることなく、保証債務を整理することができる方法である「経営者保証ガイドライン」について解説していきます。

1 経営者保証ガイドラインとは

 経営者保証ガイドラインの正式名称は、「経営者保証に関するガイドライン」といいます。この経営者保証ガイドラインは、経営者保証における合理的な保証契約のあり方等を示すとともに、主たる債務を整理する局面における保証債務の整理を公正かつ迅速に行うための準則として、2013年12月に策定・公表され、2014年2月に運用開始されました。この経営者保証ガイドラインは「準則」であり、法律として制定されたものではありませんので、法的拘束力はありません。しかしながら、主たる債務者、保証人及び対象債権者は、経営者保証ガイドラインに基づく保証契約の締結、保証債務の整理等における対応について誠実に協力することとされており、実務的には自主自律的なルールとして遵守されているといえます。

2 経営者保証ガイドラインの概要

(1)経営者保証ガイドラインの構成

経営者保証ガイドラインは、以下のような構成となっています。

1.目的
2.経営者保証の準則
3.ガイドラインの適用対象となり得る保証契約
4.経営者保証に依存しない融資の一層の促進
5.経営者保証の契約時の対象債権者の対応
6.既存の保証契約の適切な見直し
7.保証債務の整理
8.その他

 「1.目的」には、①中小企業金融における経営者保証について、主たる債務者、保証人、及び対象債権者において合理性が認められる保証契約の在り方等を示すこと、②主たる債務の整理局面における保証債務の整理を公正かつ迅速に行うための準則を定めることにより、経営者保証の課題に対する適切な対応を通じてその弊害を解消し、もって主たる債務者、保証人及び対象債権者の継続的かつ良好な信頼関係の構築・強化とともに、中小企業の各ライフステージにおける中小企業の取組意欲の増進を図り、ひいては中小企業金融の実務の円滑化を通じて中小企業の活力が一層引き出され、日本経済の活性化に資すること、が目的として定められています。
 そして、この②に記載されている「保証債務の整理を公正かつ迅速に行うための準則」が、「7.保証債務の整理」に記載されており、これから説明する内容となります。

(2)経営者保証ガイドラインQ&A

 なお、経営者保証ガイドラインには、ガイドライン本体のほかに、「経営者保証に関するガイドライン」Q&A(以下、「Q&A」)が定められており、具体的な実務を行う上での留意すべきポイント、解釈の指針、具体例等が記載されています。実際に経営者保証ガイドラインを利用して保証債務を整理する場合には、このQ&Aも参照して手続を進める必要があります。

3 対象債権者の全員の同意が必要

 経営者保証ガイドラインに基づく保証債務の整理は、経営者個人の債務の私的整理として位置付けられます。従って、経営者保証ガイドラインに基づく保証債務の整理は、全ての対象債権者の同意によって成立するものであり、対象債権者の一部が同意しなかった場合には、原則として、整理手続による弁済計画案は成立しません。このため、対象債権者との関係性において、従前の事実経過において同意を得ることが困難な事情がある場合には注意が必要です。例えば、それまでの交渉・協議の経過において、対象債権者である金融機関に対して誠実な対応を行っていなかった場合には、同意を得ることができなくなる結果、保証債務を整理することができなくなる可能性がありますので注意が必要です。

4 対象債権者の範囲

(1)住宅ローンやカードローンはどうなるの?

 中小企業の経営者が、住宅ローンやカードローンなどの債務を負担していることは特段珍しいことではありません。心当たりのある方もいらっしゃると思います。しかしながら、経営者保証ガイドラインは債務整理の対象債権者として「保証債務の債権者」を想定していますので、これらの固有債務をどのように取り扱うかが問題となります。
 実務的には、①保証債務のみを対象として経営者保証ガイドラインに基づく債務整理を行うこととし、固有債務については別途債権者と協議して残存資産及び将来収益等から弁済することとするか、又は②弁済計画の履行に重大な影響を及ぼすおそれのある固有債務の債権者に含まれると考え、固有債務についても経営者保証ガイドラインに基づく債務整理を行うことのいずれかの方法で対応しています。この判断をするにあたっては、固有債務の内容、金額、債権者数、その後の手続の見通し等を総合的に考慮する必要がありますので、手続に精通した弁護士にご相談されることをおすすめします。

(2)リース取引の連帯保証はどうなるの?

 中小企業の経営者は、銀行などの金融機関のみならず、機械設備やパソコンなどのリースについても、連帯保証人となっているケースが多いです。リース債権については、主債務者である中小企業が事業を継続し、リース料も引き続き支払っていくのか、それとも民事再生等の法的倒産手続に伴って債権カットの対象になるのかによって取扱いは変わってきます。法的倒産手続によって債権カットされる場合には、その連帯保証債務についても何らかの債務整理が必要になりますが、経営者保証ガイドラインにおける対象債権に含めて、金融債権とともに債務整理の対象とするケースが多いでしょう。

5 「一体型」「単独型」って何ですか?

 経営者保証ガイドラインに基づく保証債務の整理に関する文献を読むと、「一体型」「単独型」という耳慣れない言葉が出てきます。これは何を意味するのでしょうか。
 経営者が負担している保証債務は、中小企業が金融機関から融資を受けた借入金の返還債務を「主債務」とし、その主債務を保証するものとして負担しているものとなります。この主債務と保証債務は法律上は別個の債務となりますので、整理する場合には、主債務と保証債務の両方を整理しなければなりません。この場合の整理の方法として、主債務者の債務整理と保証人の債務整理とを一体として処理する場合(一体型)と、経営者の保証債務のみを処理する場合(単独型)に分類しています。一体型は、事業再生ADR、私的整理に関するガイドライン、中小企業再生支援協議会による手続、REVICによる手続、特定調停等の準則型私的整理を利用して行われます。これに対し、単独型は、主債務者が法的整理手続を利用している場合、又は主債務者の債務整理が終結している場合等に行われ、中小企業再生支援協議会による手続や特定調停等を利用して行われます。

6 経済合理性とは?

 私的整理手続を利用して債務を整理する場合、対象債権者が当該手続における弁済計画案に同意するためには、経済合理性があることが前提となります。この経済合理性も、耳慣れない言葉ですね。
 この場合の経済合理性は、一般的には債務者が破産した場合における回収額と私的整理手続を行った場合の回収額とを比較し、後者が前者を上回る場合に認められるものといえます(なお、さらに、後者が前者を下回らない場合であれば、経済合理性に反するとはいえないと考えられます。)。
 経営者保証ガイドラインでは、経済合理性について保証債務だけではなく、主たる債務と一体として判断するものとされる点が特徴的です。具体的には、主たる債務及び保証債務について弁済計画案に基づく回収見込額の合計金額と、現時点において主たる債務者及び保証人が破産手続を行った場合の回収見込額の合計金額を比較して、前者が後者を上回る場合には一定の経済合理性が認められるものとされています。
 なお、主たる債務者が清算型手続の場合には、現時点において清算した場合における主たる債務の回収見込額及び保証債務の弁済計画案に基づく回収見込額の合計金額と、過去の営業成績等を参考としつつ、清算手続が遅延した場合の将来時点(将来見通しが合理的に推測できる期間として最大3年程度を想定)における主たる債務及び保証債務の回収見込額の合計金額とを比較し、前者が後者を上回る場合には一定の経済合理性が認められるものとされています。

7 残存資産って何ですか?

 経営者保証ガイドラインには、保証債務の履行に際し、保証人の手元に残すことができる資産(残存資産)の内容及び範囲が定められており、一般的に、破産手続による場合よりも多くの資産を残すことができると定められている点に特徴があります。
 経営者たる保証人が早期に主たる債務者である中小企業の事業再生等の着手を決断し、その結果、主たる債務者の対象債権者に対する弁済原資が増加することになれば、経営者たる保証人は、結果として対象債権者の回収額の増加に寄与したことになります。そこで、経営者たる保証人に早期の事業再生等を決断させるインセンティブを与えるため、破産した場合よりも多くの資産を残存資産とすることが認められているのです。
 この残存資産の範囲については、経営者保証ガイドラインに「破産法上の自由財産(本来的自由財産及び裁判所の決定により拡張される自由財産)」「一定期間の生計費に相当する現預金」「華美でない自宅」等が記載されていますが、実際のどの程度の財産を残すことができるかについては、具体的な事案によって異なります。どの程度の財産を残すことができるのか、特に自宅を残すことができるのか等については、とても重要な問題になりますので、手続に精通した弁護士に相談されることをお勧めします。

8 信用情報

 経営者保証ガイドラインによる債務整理を行った保証人(中小企業の経営者)について、対象債権者は、その保証人が債務整理を行った事実その他の債務整理に関連する情報を、信用情報登録機関に報告、登録しないこととされています。また、Q&A8-5において、経営者保証ガイドラインに基づく弁済計画について対象債権者と合意に至った時点、又は分割弁済の場合は債務が完済された時点で「債務履行完了」として登録するものとされ、事故情報の登録は行われないと説明されています。

9 まとめ

 以上の通り、中小企業の経営者が金融機関に対して負担している連帯保証債務については、経営者保証ガイドラインを利用して整理することができる場合があります。実際にどのような手続・内容で行うかについては、会社の事業再生に関するご相談と共に、弁護士にご相談いただくことをお勧めします。

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