10:民事再生を申し立てると、会社の不動産に設定された担保はどうなるの

・民事再生の申立てをしても、担保権の行使は制限されません。
・担保権の評価方法については、様々な見解が対立しています。
・担保権者との交渉にあたっては、評価額についての理論状況を理解したうえで、担保権者をいかに説得するのかという、交渉力が重要になってきます。

こんにちは。
事業再生支援グループの弁護士の小川洋子です。
 民事再生の申立てをした場合、抵当権が設定された不動産や、集合動産譲渡担保の対象となっている在庫商品、またはリース機械などはどうなるのでしょうか。
 今回は、民事再生手続において、担保権者との交渉がなぜ重要なのか、担保目的物をどのように評価するのか、担保権者との交渉をどのように進めるのかについて、お話したいと思います。

1.担保権者との交渉の重要性

民事再生の申立てをしても、担保権の行使は制限されない

 不動産に設定された抵当権、在庫商品に設定された集合動産担保、リース(これらはほんの一例で、これらに限られません)などの民事再生申立てをした会社が所有する資産に設定された担保権を、「別除権」といいます。そして、別除権は再生手続外での行使ができるとされています。つまり、民事再生の申立てをしても、担保権の行使は制限されないということです。
 民事再生は、実態収益力に見合うところまで、既存の債権をカットすることによって、財務状態、資金繰り状況を健全化することで会社再建を可能にする、事業再生の強力なスキームのひとつですが、民事再生の申立てをしても、担保権を実行されるリスクは残る、ということになります。

担保権実行中止命令、担保権消滅請求

 「ええ?!工場が競売にかけられたら、事業再建なんてできないじゃないですか」「在庫商品を売れないなら、その時点で商売続けていけませんよ」という声が聞こえてきそうですね。
 おっしゃるとおりです。
 ただし、安心してください。民事再生法は、担保権の行使を停止する手続(担保権実行中止命令)や担保権の対象財産の価額相当額を裁判所に納付することにより担保権を消滅させる手続(担保権消滅請求)を用意しています。

担保権者との交渉の帰趨が民事再生の成功を左右する

 実務上は、必要に応じて担保権実行中止命令などの手続を使いながら、担保権者と交渉して、担保権の評価額を支払うかわりに担保権を解除してもらう合意を取り付けて、担保権の実行を回避して、事業の継続・再建を進めていくことになります。
 そして、担保権者との交渉をうまくまとめられるかどうかが、民事再生の成功のカギを握っているといっても過言ではありません。

2 担保目的物の評価

担保目的物の評価額=担保解除額

 事業に必要な資産に担保権が設定されている場合、当該担保目的物をいくらで評価するかは、民事再生の見通しを立てるにあたっても重要なポイントとなります。民事再生は、過剰債務をカットすることにより会社再建を可能にするスキームですが、担保目的物の評価額、すなわち当該担保を解除してもらうために必要な金額が大きくなりすぎれば、そうした民事再生のカットメリットが十分に得られないということになるからです。

民事再生法には担保権の評価の仕方に関する規定がない

 このように、担保目的物の評価額は民事再生の成功を左右する重要なポイントとなるにもかかわらず、実は、民事再生法には、「別除権(民事再生申立てをした会社が所有する資産に設定された担保権)をどのように評価すべきか」について規定した条項はありません。

評価額が高額になる傾向

 他方で、別除権が民事再生手続による制約を受けないことから、別除権者が交渉において事実上優位な立場にあるため、評価額が高額になる傾向があるともいわれています。
 このように評価額が高額な傾向になりがちな点については、結果として、別除権者が、従前担保価値として把握していた価値を超える利益を受けることとなり、実質的には、担保で保全されていない債権額部分(非保全債権額部分)について高額な配当をするのと同じになり、ほかの再生債権者との平等を害しかねないと批判されています。

担保権の評価についてさまざまな見解が対立

 こうした問題意識を踏まえ、学者や実務家らによって、別除権の評価方法については、客観的な基準によるべきであるとの主張がなされています。そして、具体的にいかなる評価方法によるべきかについては、様々な見解がありますが、実務家を中心に、清算を前提とした早期処分価額を原則とすべきであるとの考え方が有力に主張されています。
 清算を前提とした早期処分価額を原則とすべきとの考え方を前提とする場合は、別除権者とは、仮に廃業・清算した場合、数か月という限られた期間内に処分するとすれば、いくらで処分できるかという点から評価した金額をベースに交渉をすることになります。

3 別除権者との交渉の進め方~交渉力が重要!~

 では、具体的にどのような手順で、別除権者との交渉をすすめていくことになるのでしょうか。
 ここでは、不動産担保を前提に、どのように交渉を進めていくかについて、説明します。

① 不動産鑑定の依頼

 不動産担保の場合は、多くの場合、別除権者との交渉にあたっては、不動産鑑定書の準備が必要不可欠となります。不動産鑑定にあたっては、いわゆる正常価格と早期処分価格を出してもらうことになりますが、鑑定手法によって鑑定価格が変わりますので、物件にあわせてどのような手法で鑑定するのが相当か、不動産鑑定士と協議することも重要になってきます。
 なお、不動産鑑定には約1ヶ月の時間を要するのが通常です。開始決定後の早い段階で別除権者との交渉が開始できるよう、事業の継続に必要な不動産については、民事再生手続開始の申立て後、開始決定が出る見込みがたった段階で、速やかに不動産鑑定の依頼をするようにします。

② 配分案の作成、支払方法の検討

 不動産鑑定の結果が出たら、鑑定で出た早期処分価格に基づき、どの別除権者にいくら支払うか配分案を作成します。また、配分案を前提として、いつどのような方法(一括支払いか分割支払いか)で支払うかについても検討します。
 自主再建型の場合は、今後の事業計画、キャッシュフロー計画を前提として別除権の支払原資がいくら捻出できるか、スポンサーがついている場合は、スポンサーの資金調達計画も前提としながら、支払時期・方法を検討することになります。

③ 別除権者との交渉

 そして、配分案、別除権の支払計画を作成した段階で、各別除権者と個別に交渉します。別除権者との交渉の結果、別除権の支払について事実上合意に至ることができたら、再生債務者代理人において、別除権協定を作成します。
 金融機関は、貸付の際、正常価格ベースで担保価値を把握しているため、再生債務者が提示する処分価格と金融機関が当該物件から回収を期待する金額との間には、乖離が生じやすく、交渉が難航することが少なくありません。
 再生債務者代理人は、別除権者である金融機関に対し、債権者平等の観点から監督委員の同意が得られない、弁済原資の捻出が困難である等の事情を丁寧に説明し、提案内容を受け容れてもらうようねばり強く交渉する必要があります。

④ 別除権協定の締結

 交渉の結果、別除権評価額、弁済方法について合意に至ることができれば、別除権者と合意書を締結します。こうした別除権者との合意書は別除権協定と呼ばれています。
 なお、別除権協定締結は、監督委員の同意又は裁判所の許可がなければ効力を生じません。そこで、別除権者との交渉がまとまる見通しが出てきた段階で、監督委員と、別除権者と締結予定の協定の内容について情報共有し、監督委員の意見も踏まえて、協定の内容を詰めていきます。別除権者が別除権の評価額について、高額な主張を続けて交渉が難航するような場合は、そのような金額では監督委員の同意が得られないとして譲歩を迫る等の方法をとることもあります。

4 まとめ

 「2 担保目的物の評価」のところで、「別除権をどのように評価すべきか」について規定した条項がないため、様々な見解が対立しているという話をしました。
 実務家を中心に、清算を前提とした早期処分価額を原則とすべきであるとの考え方が有力に主張されていますが、別除権者が同じ見解をとっているとは限りませんし、同じ見解をとっていたとしても、評価額についての目線がずれることは少なくありません。
 このため、別除権者との交渉にあたっては、別除権評価額についての理論状況を理解したうえで、別除権者をいかに説得するのかという、交渉力が重要になってきます。
  また、交渉がまとまった際に作成される別除権協定の作成にも、専門的知見が必要となります。
 そういう意味では、あなたの顧客が民事再生を使って再建できる可能性があるかどうかの見極めはもちろんのこと、別除権者との交渉をうまくまとめて民事再生を成功に導くには、事業再生に精通した弁護士に相談・依頼することが重要です。

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