09:再生計画は、何のために、誰が作成するのですか?

・「再生計画」は、再生債権者に対する弁済の比率や時期などを定めるものです(例えば、元本、利息及び遅延損害金の合計額の70パーセントについて免除を受け、10年分割で支払うなど)。
・裁判所に「再生計画」を認可してもらうためには、債権者集会において、「債権額」で2分の1以上、「頭数」で過半数の再生債権者の賛成を得ることが必要です。
・説得力のある「再生計画」を作成するためには、その裏付けとなる「事業計画書」等の作成も含めて、再生債務者と税理士・弁護士との間で役割分担を決めて、早い段階から作成に取り掛かることが大切です。

 こんにちは。
 事業再生支援グループメンバーの弁護士の上山です。

 再生手続を成功させるためには、日々の業務をしっかりと継続していくことは勿論ですが、申し立てから約6か月後に開催される債権者集会において、再生計画案を再生債権者の方々に承認してもらい(頭数で過半数かつ債権額の2分の1以上の賛成が必要です)、事業継続の負担となっていた債務の一部を免除してもらうことが、法的な手続の中で最も重要な目標になります。
 今回は、再生計画を作成する際のポイントについて、計画の記載事項、作成のスケジュールと役割分担、再生計画案を再生債務者に承認してもらうための準備、再生債権者の承認と裁判所の認可を受けた後の再生計画の変更の方法、と順を追ってお話したいと思います。

1 再生計画案に記載すべきこと

 では、再生計画案には、具体的にどのような事項を記載すれば良いのでしょうか。
 まず、法律で必ず定めなければならないと規定されているのは、次の事項です(絶対的必要的記載事項)。特に、①の条項は、別途作成される「事業計画」で想定した事業収益力などを前提として、何パーセントの弁済をいつまでに行うのかが定めるものであり、再生債権者が最も関心を持つ事項です。

  1. 全部または一部の再生債権者の権利の変更に関する条項
  2. 共益債権および一般優先債権の弁済に関する条項
  3. 知れている開始後債権があるときはその内容に関する条項

 また、法律で要求されているわけではありませんが、再生債権者に再生計画案をより良く理解してもらえるように(再生計画案を承認する気持ちになってもらえるように)、再生計画の基本方針(具体的には、再生手続申立てに至った事情、開始決定後の事業の状況、再生計画案策定の経緯、事業の再生方針、再生計画案の骨子、弁済原資に関する事項など)を記載するのが一般的です。

2 再生計画案作成のスケジュールと役割分担

再生計画案の書式はインターネットで検索すれば出てきますし、再生計画の事例集も出版されていますのでそれらを見れば出来上がりのイメージを掴むことは出来ると思いますが、実際にどのようなスケジュールと役割分担で再生計画案が作成されるのでしょうか。

① スケジュール

 再生計画案は、いきなり債権者集会に提出するのではなく、その前に監督委員や裁判所のチェックを経る必要があります。実務上は、裁判所が再生債務者の事業規模や再生債権者の数などを考慮して、再生手続開始決定の日から起算して2か月半ないし4か月程度の時期を裁判所への正式な再生計画案の提出期限として設定されることが多いようです。
 「正式な」と書いたのは、名古屋地方裁判所では(東京地裁等と同様に)、それに先立って「草案」の提出を求める運用がなされているため、それと区別するためです。そして、この「草案」の提出期限は、正式な再生計画案の提出期限の4週間前(申立日から10週間後)に設定されるのが一般的です。
 したがって、再生債務者は、この「草案」の提出期限に間に合うように、顧問税理士や弁護士との間で事前に役割分担を決めて効率的に準備を進める必要があります。

② 役割分担

 再生計画の基本方針の導入部分(再生手続申立てに至った事情、開始決定後の事業の状況など)については、再生債務者の経営陣が中心となって作成することが多いのですが、再生計画案の中心となる弁済計画の内容(少額債権の取扱い、弁済率、弁済時期等)を検討するためには、弁済原資となる事業収益の見込みが記載された「事業計画書」や「キャッシュフロー表」が不可欠ですので(これらの書類は、再生債権者が再生計画案に賛成するか否かを判断するための資料として、議決票とともに送付されることになります)、顧問税理士が再生債務者の経営陣や経理部門の責任者などと相談しながら、早い段階から試案の作成に取り掛かることが多いと思います。
 もちろん、最初から精度の高いものが要求されるわけではなく、ファーストドラフトを検討のたたき台として弁護士も交えて弁済計画を検討していく中で、想定される債務免除を受けた場合の免除益課税等のタックスプランニング、別除権処理に要する費用の確定などを経て、より精度の高いものへと修正を繰り返し、その内容が現実的で説得力を有するものに仕上げていけば良いのです。
 他方、再生債務者、税理士及び弁護士の間での検討結果をどのように再生計画案に記載するかについては、主に弁護士の役割となります。

3 再生計画案を承認してもらうための準備

 このように苦労して出来上がった再生計画案も債権者集会で承認してもらえないと破産手続に移行してしまいますので、事前に「票読み」を行うことが一般的です。
 大口の債権者については、手続開始当初から再生債務者の経営陣が事情説明や協力要請のために直接訪問したり、その後も頻繁にやり取りをしていることから、その意向が既に再生計画案に反映済みであることが多いのですが、承認を得るためには、「債権額」で2分の1以上の賛成のみならず、再生債権者の「頭数」でも過半数の賛成を得る必要です。
 そのため、小口の債権者が多い場合には、その承認の見込みに応じて、再生債務者の経営陣、営業担当者などが分担して、各債権者を訪問(必要に応じて、顧問税理士や弁護士も同行)または電話する方法で最後のお願いを行うことになります。

4 再生計画の変更

 最後に、一旦確定した再生計画の内容は変更することができないのか、という点についてご説明します。
 再生計画案やその前提となる「事業計画」は、あくまでも将来の予測であり、想定外の外的要因(景気や為替等の経済情勢の変動、主要取引先の倒産、自然災害の発生など)や内的要因(幹部社員の退職・転職、新製品の開発・販売開始の遅れ、品質管理能力の低下による不良率・返品率の増加など)から予測どおりの実績を上げることができない場合も少なくありません。
 もし、再生計画で約束した弁済が出来ない場合には、最悪の場合には、再生手続が廃止され、破産手続へ移行してしまうことがありますので、民事再生法では、再生債権者の決議又は裁判所の決定を受けることを条件として、従前の再生計画の内容を変更する再生計画自体を変更する手続が用意されています。
 今回の新型コロナウイルスの流行などは、まさに想定外の外的要因であり、再生計画の変更もやむを得ないかと思いますが、予め、事業収益力を保守的に見積もった弁済計画を策定したり、不測の事態に備えた手元資金を留保しておくことで、ある程度の目標未達とそれによる資金繰りの悪化を吸収することを織り込んだ事業計画・再生計画案を作成することが肝要です。

5 まとめ

 以上のとおり、説得力のある再生計画は、事業再生の妨げとなっている債務の一部について免除を受け、かつ、支払いを繰り延べることについて債権者の理解と承認を得るために必須のものですので、手続の早い段階でファーストドラフトを作成し、その後の関係者の協議の中でブラッシュ・アップしていきましょう。

 

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