08:民事再生の「財産評定」「債権調査」とは?

・再生手続開始時における再生債務者の資産と負債の現状を把握するための手続が、①財産評定と②債権調査です。
・財産評定により把握された「清算価値」と、債権調査により把握された再生債権の総額によって、再生債権に対する「清算配当率」を算定します。
・民事再生手続の「再生計画」は、この清算配当率以上の弁済を実施する必要があります。

 

こんにちは。
事業再生支援グループの弁護士の鬼頭容子です。

民事再生手続は、再生手続が開始されたときに存在する「再生債務者の負債」について、「再生計画」において一定割合の免除を受け、免除後の金額を分割弁済することによって、再生債務者の事業の再建を図ろうとする手続です。そこで、再生債務者が、この再生計画案を策定するために、また、債権者が、同再生計画案に賛成するかどうかを決めるために、

  1. 再生債務者が、再生手続開始決定時に、どのような財産を有しているか、
  2. 再生債務者が、再生手続開始決定時に、誰に対して、いくらの債務を負っているか、

再生債務者の資産と負債の現状を正確に把握することが必要です。そのための手続が、①財産評定と②債権調査です。
 裁判所は、民事再生手続開始決定時に、①再生債務者が、その財産状態を示す「財産目録」及び「貸借対照表」を提出する期限、②債権者が債権を届け出る期間と再生債務者がその債権の認否をするための「債権調査」の期間、を定めますので、再生債務者は、この定められた時間内に、作業をする必要があります。
 ここでは、この二つの手続について、その概略を説明したいと思います。

1 財産評定

(1)財産評定の目的

 財産評定によって、債務者の資産(積極財産)を評価し、これに基づいて再生手続通開始時における「清算価値」を把握します。そして、財産評定により把握された「清算価値」と、後述する債権調査により把握された再生債権の総額によって、再生債権に対する「清算配当率」を算定します。
 民事再生手続の「再生計画」は、この清算配当率以上の弁済を実施する必要があります(これを「清算価値保障原則」といいます)ので、財産評定は、再生計画案策定のための重要な作業です。
 また、再生債権者にとっても、再生計画案に賛成するか否かを決するための重要な判断資料となります。

(2)清算価値及び清算配当率の計算 

 貸借対照表を作成し、清算配当率を算定します。
清算価値(予想弁済額)は、①資産総額から、②別除権予定額、③相殺見込額、④共益債権・一般優先債権の合計額及び⑤清算手続費用(破産した場合の予納金や破産管財人報酬見込額)を控除した額となります。
 そして、清算配当率は、同清算価値÷(再生債権総額-②-③-④-⑤)として、算定されます。
 再生債務者は、この清算配当率を上回る弁済率を上回る弁済を実施できるよう、再生計画案を立案する必要があります。

(3)財産評定の方法及び留意点

 財産評定は、再生手続開始時の清算価値を把握するものですから、当該財産を処分することを前提として行うことになり(民事再生規則56条1項本文)、一般的には、市場において早期に処分することによる減額を考慮した早期処分価額を基準とすることになります。また、必要に応じて、再生債務者の事業を継続することを前提とした継続企業価値で評価することもできます(同条同項但書)。
 財産評定は、前記のとおり、再生計画における弁済率決定の基礎となるものですから、再生債務者としては、低額に抑えたい気持ちも働きますが、再生債務者は、再生手続を遂行する機関として公正誠実義務が課せられており、また、監督委員の調査の対象であり、債権者に厳しい判断にもさらされますので、客観的な評価が必要です。例えば、主な財産の評価方法は下記のとおりです。

ア 現金・預金

 現金・預金は、再生手続開始決定時の額面額で評価します。

イ 売掛金・貸付金等の金銭債権

 金銭債権は、回収可能性を考慮して評価します。長期滞留債権のように回収可能性が著しく低い不良債権と正常な債権を区別し、個々の債権ごとに現実的な回収見込額を評価します。破産手続が開始された場合、通常取引時に比べて回収可能性は低下し、回収費用等もかかるため、一定額の減額を行うことになります。

ウ 棚卸資産

 棚卸資産の諸運価額は、早期売却見込額から売却費用を控除した価額とします.。買取業者の査定書を参考にしたり、棚卸資産の種類等に応じて簿価額に一定割合を乗じた金額を処分価額とすることもあります(日本公認会計士協会『経営研究調査会研究報告第23号「財産の価額評定等に関するガイドライン(中間報告)」』201頁。同ガイドラインは、会社更生手続に関する指針をまとめたものですが、「処分価格」における清算処価格については、民事再生手続における評価方法と同義であることから参考になります)。

エ 不動産

 不動産の評価は、概ね、不動産鑑定士による鑑定評価に基づいて行われます。
などです。
 この財産評定は、監督委員及び監督委員の補助者である公認会計士ないし税理士によって調査されることから、各財産の種類等に応じた評定の方針を財産目録に付記して説明する必要があります。また、監督委員からの質問、意見等に対して誠実に説明し、疑問点については、協議を尽くすことが望まれます。

(4)まとめ

 このように、再生債務者が行う財産評定によって、再生債務者の積極財産の清算価値が把握されることになります。

2 債権調査

(1)債権の種類

ア 再生債権

 民事再生手続開始決定時までに発生原因がある財産上の請求権を「再生債権」といい、その債権者は、再生手通開始決定後は、原則として、再生計画によらなければ、その債権の弁済を受けることができなくなります。再生債務者も、再生手続開始決定後は、原則として、再生計画によらなければ、弁済をすることができません。
 再生債権者は、再生計画に基づく弁済を受ける権利を有するだけでなく、再生計画案を承認するかどうかについて債権額に応じた議決権を行使して再生手続に参加することができます。

イ 共益債権、一般優先債権

 なお、再生手続開始決定前に発生している債権でも、租税債権、労働債権、他の法律で定められた一定の債権は、再生計画によらないで、再生手続の進行中も、随時弁済を受けることができ、再生債務者には、弁済する義務があります。

(2)債権調査の意義

 債権調査は、再生債権を確定するために行われます。そして、債権調査は、再生債権の存否及び金額を把握するという意義を有するとともに、原則として、再生債権額がそのまま議決権額となるため再生計画案の決議を行う際の議決権額を確定するという意義を有しています。

(3)債権調査の手続

 債権調査の手続は、概ね次のように進みます。

ア 債権者による債権届出

 再生債務者は、再生手続開始の申立てをする際、裁判所に、債権者一覧表を提出しており、裁判所は同表に記載されている債権者に対して、民事再生手続が開始された旨の通知、債権届出書及び債権届出に関する説明書を送付します。債務の弁済を希望する債権者は、これに応じて裁判所に対し、定められた債権届出期間内に債権届出書を提出します。この債権者による債権届出が債権調査のスタートになります。

イ 再生債務者による債権調査と認否書の提出

 再生債務者は、債権者の届け出た債権について、債権の存否及び額を調査し、その結果を「認否書」に記載して、裁判所に提出します。また、「認めない」(一部を認めない場合を含む)旨の結論となった債権者に対し、その認否結果を通知します。

ウ 再生債権の確定

 再生債務者が認めた再生債権は、その存在及び金額が確定し、同金額が、再生計画における弁済の対象となります。また、同金額に応じた議決権(議決権額)を行使することができます。

エ 自認債権

 再生債務者が、債務を負担していると考えている債権者が、債権届出書を提出しない場合には、再生債務者は、これを「自認債権」として認否書に記載します。この自認債権である再生債権は、再生計画に基づく弁済の対象となりますが、議決権を行使することはできません。

(4)債権調査における注意点

 再生債務者が債権の存否及び額について調査する場合、既払い分がないか、相殺処理や相手方の債務不履行など支払を拒むべき理由がないか、等について、十分に注意する必要があります。
 再生債務者が、認否書において単純に認めてしまうと、前記のとおり再生債権が確定するので、認否書提出期限までに判断できない場合は、一旦認めない認否をした上で、相手方からの主張や証拠の提出を踏まえて、認めるべき部分がある場合には、認否を変更して対応することになります。
 また、信用保証協会や保証会社の保証付債権については、代位弁済の有無及びその先後を確認し、重複して認めることがないよう注意する必要があります。
 再生債権を被担保債権として根抵当権を設定している場合など、別除権を有している再生債権者は、再生手続によらずに別除権を行使することによって債権の満足を得ることができますが、一方で、別除権行使によってカバーされない債権額については、別除権の不足額が確定するまでは、再生計画による弁済を受けられず、また、議決権も予定不足額の範囲でしか行使できません。したがって、再生債務者は、非典型担保の場合など、別除権付再生債権でないかどうかに注意する必要があります。

(5)まとめ

 このように、再生債務者が行う債権調査によって、再生手続の対象となる再生債権が把握されることになります。

3 経験ある専門家の支援を受けることが必要

 民事再生を成功させるには、財産評定と債権調査を適切に行う必要があります。財産評定と債権調査を適切に行うためには、民事再生手続の経験がある専門家の支援を受ける必要があります。民事再生を含め、顧問先企業の再生をお考えの方は、経験ある専門家が集まる当グループにご相談ください。

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