07:民事再生を申立てた後に行うことは?

・申立ての直後、従業員、金融機関等の主要債権者、主要取引先等に対して、申立てに至る経緯と今後の方針を説明し協力を依頼します。
・申立ての数日から1週間程度内に開催する債権者説明会において、申立てに至った事情、今後の取引条件、再生手続の見通し等を説明し、協力を要請します。
・民事再生手続開始決定の効果には、再生債務者の公平誠実義務、再生債権の弁済禁止、強制執行の禁止などがあります。

 事業再生支援グループの弁護士の柚原です。
 民事再生手続において最も大変な時期は、申立てから開始決定までの約2週間です。民事再生手続を行うことが取引先・金融機関・従業員等の関係者に一斉にオープンとなるため、どのように対応するかを事前に綿密に検討しておく必要があります。
 以下、申立当日及び直後、債権者説明会、再生手続開始決定に分けて説明します。

1 申立当日及び直後の対応

 申立当日から申立て直後に申立会社及び申立代理人が行うべきことは以下のとおりです。

  1. 裁判所へ申立て(再生手続開始申立て及び弁済禁止の保全処分の申立て)、予納金の納付
  2. 債権者(金融機関・取引債権者等)への通知
  3. 従業員への説明
  4. 主要取引先及び金融機関への説明と協力依頼
  5. 債権者や得意先からの問い合わせへの個別対応

(1) 申立て

 申立当日、申立代理人弁護士は、再生手続開始申立書及び弁済禁止の保全処分の申立書を裁判所に提出します。申立前の適切な時期に事前相談を行っていれば、これらの申立ては即時に受理され、裁判所が定めた額の予納金を納付すると、監督命令及び弁済禁止の保全処分の発令がなされます。

(2) 債権者への通知

 監督命令及び弁済禁止の保全処分の発令を受けた後、申立代理人弁護士は、債権者に対して、再生手続開始の申立てを行ったこと、裁判所から弁済禁止の保全処分を受けたこと、債権者説明会の案内等を通知する書面を送ります。特に、融資を受けている金融機関については、通知が到達した後に申立会社の預金口座に入金があった場合、当該入金にかかる預金債権と当該金融機関の貸付債権との相殺が禁止されるため、弁済禁止の保全処分発令後速やかに通知を行う必要があり、保全処分の決定書を受領次第ファクシミリで通知します。

(3) 従業員への説明

 申立ての直前又は直後に、従業員に対して、民事再生の申立ての事実及び今後の事業運営等について説明します。事業を停止する破産と異なり今後も事業を継続する、そのためには従業員の皆様が従前と変わらず各自の業務を行うことが重要であることを説明します。
 なお、民事再生に伴い部門を閉鎖する等により一部従業員を解雇する場合、解雇に伴い会社が行うべき手続は速やかに行い、解雇する従業員に対しても解雇理由及び諸手続について丁寧に説明しましょう。

(4) 主要取引先及び金融機関への説明と協力依頼

 民事再生は基本的に事業を継続してその収益から弁済を行う手続ですので、事業を継続できることが何よりも重要です。そこで、申立当日か遅くとも数日内に、事業継続に不可欠な取引先に対して、経緯の説明と共に今後の事業継続への協力を依頼します。不可欠性の程度に応じて優先順位を決め、会社幹部と申立代理人弁護士とで分担して訪問もしくは電話・書面での連絡をします。
 また、一般に金融機関は多額の債権を有しており、民事再生の成功のためには金融機関の理解を得ることが不可欠です。そして、事前に金融機関と協議のうえで民事再生の申立てをする例外的な場合を除き、金融機関にとっては寝耳に水の一大事です。そこで、できる限り申立当日に金融機関(担当支店)を訪問し、申立てに至る経緯と今後の方針を説明します。

(5) 債権者や得意先からの問い合わせへの個別対応

 民事再生手続を行ったことに伴う取引先からの問合せの一次的な対応は、各担当従業員が行うことになります。そこで、事前に問合せ対応マニュアルを作成し、まずは各担当従業員がマニュアルに基づいた説明をして、担当従業員が対応できない事項は役員・管理職又は弁護士が対応する、という業務フローを決めて説明・指示します。

2 債権者説明会

(1) 債権者説明会の目的

 債権者説明会は、裁判所の主催により裁判所で行われる債権者集会とは異なり、再生債務者(代理人)が主催し、会場の確保・債権者への案内・配布資料の準備・当日の進行も再生債務者(代理人)が行います。
 債権者説明会を行う主な目的は以下の3つです。

  1. 再生債権者に対して、申立てに至った事情、今後の取引条件、再生手続の見通し等を、統一的に説明する。
  2. 再生債権者からの質問を受け、説明して疑問点の解消を図る。
  3. 民事再生手続の申立てに伴う混乱を鎮静化し、再生債権者に後の手続への協力を要請する。

(2) 開催日時・場所

 開催日は、申立日の数日から1週間程度後が最適です。申立てによる混乱を早期に鎮静化するためにはできるだけ早く開催したいところですが、再生債権者に説明会の開催とその日時の案内を行う必要があり、その余裕をみる必要があります。
 開催地は、再生債務者の主たる事業所(本店)の所在地、再生債権者の所在地の分布、遠方からの参加者の有無等を踏まえて決定します。再生債務者が複数の支店を有しており各地域に一定数の再生債権者が存在するような場合は、複数箇所で債権者説明会を実施することもあります。
 使用する施設は、貸会議室、公共施設、弁護士会の会館、ホテルの宴会場等から、想定される出席者数、使用料、出席者の利便性、設備(受付設置の可否・控室等の有無等)を考慮して選定します。

(3) 資料の準備

債権者説明会では以下のような資料を配布します。

  1. 進行次第兼配布物一覧
  2. 説明資料(申立てに至った理由、直近数年の収支状況、民事再生手続の概要と今後のスケジュール、清算配当率の見込等を記載)
  3. 保全決定書・監督命令書の各写し

(4) 当日の進行

債権者集会の一般的な進行は以下のとおりです。

  1. 開会の宣言
  2. 代表者の挨拶(謝罪と今後の協力の依頼)
  3. 弁護士の説明(申立てに至った理由・民事再生手続の概要とスケジュール)
  4. 質疑応答(主に弁護士が回答)
  5. 閉会宣言

 所要時間は、代表者の挨拶(謝罪と今後の協力の依頼)及び弁護士の説明(申立てに至った理由・民事再生手続の概要と今後のスケジュール)に20〜30分、質疑応答を含めて1時間程度であることが多いです。
 また、質疑応答の際、債権者より破綻の原因や、代表取締役をはじめとする役員の責任の取り方について説明を求められることが少なくありません。曖昧な回答により債権者に不信感を抱かせることがないよう、今後の改善策と併せて破綻の原因を丁寧に説明し、かつ、経営者責任の方向性(法的整理、私財の提供、役員報酬の減額等)を示すことが望まれます。

3 再生手続開始決定

(1) 再生手続開始決定の効果

 

 裁判所は、再生債務者主催の債権者説明会が行われた後、監督委員から再生手続開始の要件等に関する意見書の提出を受け、再生手続開始の申立棄却事由等がないと判断した場合は、再生手続開始を決定します。再生手続開始決定と同時に、再生債権の届出期間及び一般調査期間、再生債権の認否書、財産目録・貸借対照表、報告書及び再生計画案の提出期限が定められます。
 再生手続開始決定の効果は以下のとおりです。

① 公平誠実義務

 再生債務者は、再生手続が開始された場合には、債権者に対して公平かつ誠実に業務遂行権、財産管理処分権を行使し、再生手続を追行する義務を負います。

② 財産の管理処分権及びこれに対する制限

 再生債務者は、原則として再生手続開始決定後も財産の管理処分権及び業務遂行権を失いません。ただし、一定の重要な行為については、監督委員の同意又は裁判所の許可を要します。

③ 再生債権の弁済禁止

 裁判所の許可を受けた少額債権の弁済を除き、再生債務者による弁済が禁止され、再生債権者は個別の権利行使を禁止されます。なお、再生手続開始申立後、再生手続開始決定前に発生した債権は、本来的には再生債権であり弁済禁止効が及びますが、共益債権化の承認により共益債権として取り扱われます。

④ 他の倒産手続の中止等

 再生債務者についての破産手続、他の再生手続、特別清算の開始の申立ては禁止されます。

⑤ 強制執行の禁止等

 再生債務者の財産に対する再生債権に基づく強制執行、仮差押え、仮処分又は再生債権を被担保債権とする留置権による競売は禁止され、既にされている再生債権に対する強制執行等は中止されます。なお、共益債権、一般優先債権に基づく強制執行等や滞納処分に基づく差押えは中止の対象となりません。

⑥ 訴訟の中断

 係属している再生債務者の財産関係の訴訟手続のうち、再生債権に関する訴訟は中断します。

4 まとめ

 申立直後は、従業員への説明、金融機関、主要取引先に対する申立直後の個別説明、そして債権者説明会での全債権者への説明と、特に会社代表者にとっては辛いことが続きます。しかし、事業を再生することが、従業員はもちろん金融機関、債権者のためになるという信念で説明を尽くします。税理士は説明資料の作成にあたり財務・会計面をサポートし、弁護士は会社代表者とともに矢面に立ちます。チームで乗り越えましょう。

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