06:民事再生の申立てにあたり準備することは?

・資金繰りの状況、資料収集や書類作成に要する時間等を検討して、申立日を決定します。
・資金繰表、債権者一覧表、財産目録等を作成し、その他の申立書添付資料を用意します。
・申立ての1週間前までに、裁判所に事前相談を行います

 事業再生支援グループの弁護士の柚原です。
 事業を再生するために民事再生手続を行うことを決めた後、申立ての準備に入ります。時間が限られる中、通常業務と並行して、社長及び経理責任者等の限られた人数での準備は何かと手間や気苦労を伴いますが、できる限りしっかりと準備することが事業再生の成功につながります。
 以下、民事再生の申立てにあたり準備することについて説明します。

1 スケジュール

 まずはスケジュールの策定です。最も重要なのは「申立日の決定」です。申立日は、資金繰りの状況(手続費用及び申立後の業務遂行に必要な現預金を確保できるタイミング、特に約束手形を振り出している場合は不渡りとなる日)、資料収集や書類作成に要する時間等を検討して決めます。
 次に、申立予定日の1週間前までに裁判所に連絡をして、裁判所に事前相談を行います。
 並行して、申立書類の作成・準備を進めるとともに、通常は申立後通日から1週間程度内に行う債権者説明会の会場を確保します。
 申立ての直前又は直後には、従業員に対して、民事再生の申立てたこと、今後の事業運営等について説明します。
 申立直後より、主要な取引先及び金融機関に対して、弁護士と会社幹部が手分けして個別訪問し事情を説明します。

2 資料の準備

民事再生の申立てにあたり作成する主な資料は以下のとおりです。※裁判所によって必要な書類が異なる場合があります。

(1) 資金繰表

 「申立前1年分の資金繰実績表(月繰り)」、「申立後1カ月分の資金繰予定表(日繰り)」「申立後6カ月分の資金繰予定表(月繰り)」を作成します。これにより、キャッシュフローの状況を客観的に把握するとともに、申立後も資金ショートすることなく事業を継続できるかをシミュレーションします。
 民事再生の申立てをして裁判所が保全決定を出すと、その時点で発生している債務は権利変更の対象となり当面は支払わなくてよい一方で、従前の取引先が取引を中断することもあり、売掛金は反対債権があれば相殺されてしまいます。また、今後、基本的には金融機関からの借入れはできません。税理士の協力を得て、これらの想定される事情を加味して可能な限り正確に作成します。

(2) 債権者一覧表

 ①一般債権者、②金融機関債権者及び担保権者、③従業員、④リース債権者、⑤公租公課に区分して、債権者名、住所、電話・FAX番号、債権額、担保の内容を記載します。申立てをする裁判所が用意する様式例を用いるとよいです。
 債権者一覧表は、再生手続開始決定通知や債権届出書用紙等の送付先リストになるので、漏れのないように作成します。帳簿上、買掛金が同一法人の部署別に計上している場合は、法人単位で集約する必要があります。

(3) 財産目録・非常貸借対照表

 財産目録は、簿価額と評価額を記載します。評価額は、例えば売掛債権は回収可能性を、棚卸資産は換価可能性を検討・反映します。回収・換価が困難であれば、大幅な減額やゼロ評価もあり得ます。備考欄には、評価額の算定根拠、担保設定の内容等を記載します。
 非常貸借対照表は、決算日を基準日として作成する通常の貸借対照表とは異なり、民事再生申立時点において事業を清算したと仮定した場合の財産及び負債の実態を示すものです。

(4) 清算配当率の試算

 会社を清算した場合の再生債権に対する残余財産分配率を清算配当率といいます。非常貸借対照表の作成にあたり算定した資産の評価額の総額から、相殺見込や担保権が設定されている資産の額、租税公課等の優先して支払う必要がある額、民事再生手続に要する費用等を控除して再生債権の弁済の原資となる額を算定し、同額を再生債権総額で除して、清算配当率を算出します。

(5) 申立書及び添付書類

 民事再生手続の申立ては、再生手続開始申立書とその添付書類を管轄裁判所に提出して行います。多くの裁判所では様式・要領を定めているので、それに従って作成・準備します。
 これらの作成・準備は、申立日までの限られた時間内で、社内の必要最小限の人数で行う必要があるため、会社の財務状況を把握している税理士の協力を得ることが有益です。

3 裁判所への事前相談

 民事再生の申立ての前に、裁判所に事前相談を行います。事前相談に先立ち、各裁判所に用意されている事前連絡メモ等を用いて、会社の概要、資産・負債の状況、再生の方針、申立予定日等の情報を裁判所に提供します。この際、監督委員候補者について利益相反の有無を確認するため、債権者一覧表の提出も要します。
 事前相談は、特別な事情がない限り、申立予定日の1週間程度前に実施します。申立書のドラフト、債権者一覧表、資金繰予定表等の資料を基に、弁済禁止の保全処分(発令日前日までの原因に基づいて生じた債務の弁済及び担保の提供が禁止される)の内容や、申立後の初動の確認等を行います。監督委員候補者も同席するのが通例です。

4 まとめ

 民事再生の成功は申立前の準備にかかっている、と言っても過言ではありません。申立直前から債権者説明会までが最もハードな時期ですが、会社(代表者等)・弁護士・税理士が力を合わせて準備を行うことにより、事業再生の実現の可能性をグッと高めます。頑張り時です。

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