取引先が倒産した時の対応のポイント

こんにちは。
事業再生支援グループメンバーの弁護士の石井大輔です。
 取引先が倒産したら債権回収はあきらめるしかないと思うかもしれませんが、それは誤解です。
 倒産した取引先に対して有する債権の種類や、取引先が選択した倒産手続の組み合わせによっては、倒産手続外で債権を回収することができたり、他の債権者よりも優先して弁済を受けることが可能な場合があります。これらの機会を逃すことなく、より多くの債権を回収するためには、以下の基本対応が重要となります。

1 取引先が「倒産」したときの基本対応

(1)情報を速やかに収集する

 取引先が「倒産」したとの情報は、他の債権者の耳にも入っていることが考えられます。その場合、他の債権者が自社よりも早く債権回収の対応を行い、その結果、後述する担保権行使等が不可能となることになりかねません。
 そのため、取引先の「倒産」の情報が入った場合には、以下のような情報を速やかに収集することが必要です。情報の収集は、取引先の担当者に連絡を取ったり、取引先の本社や工場等の関連施設に出向くなどして収集することになります(ⅰとⅲは取引先の外観や関係者向けの説明書などから比較的容易に情報収集できると思います。難しいのはⅱですが、取引先の担当者から上手に聞き出すしかありません。)。
  ⅰ取引先の事業は継続されているか否か
  ⅱ自社が納品した商品が取引先の納品場所にまだ存在するか
  ⅲ取引先がどの倒産手続を選択したか

(2)債権に関する情報を確認する

 取引先がどの倒産手続(法的整理手続)を選択したとしても、債権回収を行うにあたっては、自社が取引先に対して有する債権について、ⅰいつ、どのような取引で、いくらの債権が発生し、その弁済期がいつなのか、ⅱ何らかの担保権が付されているのか、ⅲ保証人がいるのか等の債権に関する情報を確認することが必要です。また、担保権実行等の法的手続を行うためには、債権及び担保権の内容を証する契約書等の書類が必要になります。
 速やかに債権回収の対応ができるよう、以下の方法等により債権に関する情報を直ちに確認することが重要です。
  ⅰ担当者より、取引先との契約関係、取引状況についてヒアリング
  ⅱ経理担当者等から、売掛金台帳、買掛金台帳、伝票等の帳票を取り寄せ確認する
  ⅲメールのやり取り等の客観的資料の有無の確認

2 倒産手続における債権回収

 上記基本対応を行った上で、取引先の選択した倒産手続(法的整理手続)に応じて、自社の債権回収策を講じていくことになります。
 本記事では、倒産手続における主たる債権回収手段である、相殺、担保権の実行について解説します。

(1)相殺による債権回収

 取引先の倒産手続が開始した後も、相殺をすることが可能です。取引先に対して、買掛金等の債務を負っている場合、相殺の意思表示をすることにより、取引先に対する債権と同じ金額(「対当額」といいます。)について支払を免れることができます。取引先が倒産手続に入った場合、債権額の割合に応じた僅かの弁済しか受けられないことほとんどです。相殺をすることによって、実質的に債権の額面通りの回収を図ることが可能になるのです。
 
 ただし、何点か注意点があります。
 まず、民事再生手続の場合、債権届出期間経過後の相殺の意思表示は認められないので注意が必要です。
 また、相殺をするためには、取引先に対する債権の弁済期が到来している必要があります。破産手続の場合、取引先に対する債権は当然に弁済期が到来しますが、民事再生の場合は、破産手続と異なり当然に弁済期は到来しません。そのため、取引先との契約において、弁済期が到来する条項(「期限の利益喪失条項」といいます。)の有無について確認することが必要です。
 そして、取引先が危機時期にあることを認識した後に取得した取引先に対する債権・債務は、一定の場合禁止されます(これを「相殺禁止」といいます)。そのため、平時から取引先に対する債務を残しておくなどの対応が必要になります。

(2)担保権実行による債権回収

 担保権は、その他の債権者に優先して、担保を設定した物から債権の回収を実現する権利です。担保権は、倒産手続では、「別除権」と呼ばれています。別除権のない債権者は、倒産手続の中でしか債権を回収できない(債権額に応じた配当しか受けられない)のに対し、担保権のある債権者は、倒産手続に拘束されず、担保権を実行(競売等等)をして、優先的に回収することができます。
 別除権になる担保権には二つ種類があります。一つは、取引先との合意によって設定された担保権(「約定担保権」といいます。)であり、抵当権や質権がこれにあたります。もう一つは、法律の規定によって当然に成立する担保権(「法廷担保権」といいます。)であり、商事留置権や動産売買先取特権がこれにあたります。特に法定担保権は、当事者の合意がなくとも成立が認められる権利なので、見落とさないよう成立の有無につき確認することが重要です。

3 倒産手続外での債権回収

 取引先から直接債権が回収できない場合には、取引先以外の法人・個人に対する請求を検討していくことになります。

(1)保証人及び物上保証人に対する請求

 取引先が倒産手続に入ったとしても、保証人や物上保証人に対する請求は妨げられません。
 取引先が倒産した場合には、第2項の対応をするとともに、保証人に対する保証債務の履行の請求、物上保証人が設定した担保権の実行による債権回収を進めていくことになります。

(2)役員個人等に対する責任追及(会社法429条1項等)

 取引先の会社と、その会社の役員は別の法人格になります。そのため、取引先の会社が倒産手続を開始しても、その役員には倒産手続の効力は生じません。役員がその職務を行うことについて悪意または重過失が認められ、それにより第三者に損害を生じさせた場合、その損害を賠償する責任を負うことになるので、役員個人に対して責任を追及することを検討します。
 もっとも、役員が金融機関からの借入について連帯保証人となっており、役員個人についても倒産手続がなされた場合には、回収は困難となります。

 いかがでしたでしょうか。
 取引先の倒産の情報が入った時点であきらめるのではなく、速やかに情報を収集・確認し、本記事で回収した方法によって回収することができないか検討するのがよいと思います。
 また、本記事で紹介した回収方法が実行できるよう、取引先との契約内容の見直しの必要性についても専門家に相談する等してご検討いただければと思います。