再生計画の基礎となった事業計画の下振れと税理士の責任

 こんにちは。
 事業再生支援グループメンバーの弁護士の鬼頭容子です。
 何とか再生計画の認可にこぎつけたにもかかわらず、その後、再生計画策定時の事業計画どおりには収益があがらず、再生計画に基づく弁済の履行が難しくなってきたような場合、どうしたら良いのでしょうか。
 事業計画を策定した税理士は、何か責任を問われるのでしょうか。

1 事業計画と再生計画

 スポンサーからの支援等を受けずに、将来の事業収益から再生計画に基づく弁済をしていく、自主再建型の民事再生の場合、再生計画案の中心となる弁済計画の内容(弁済率、弁済時期、少額債権の取扱い等)を検討するために、事業計画(損益計画と資金繰計画等)の作成が必要不可欠となります。過去の業績、民事再生申立後の業績及び資金繰り状況に基づき事業計画を策定し、今後の事業収益からどの程度の弁済原資を確保することができるのかを把握し、弁済計画を検討していくことになるからです。
 この事業計画は、事業の内容を理解し、かつ会計の専門家である税理士が中心となって、会社の経営者や経理担当者、弁護士等とも協議して作成されるのが通常です。

2 業績の下振れに対する対応

 再生計画の不履行という事態を回避するために、事業計画の作成にあたっては、再生債務者が窮境に陥った原因を分析し、改善策を検討するとともに、民事再生手続による取引状況の変化等を織り込んで、現実的な計画を立てていくことになります。もっとも、窮境原因を予定どおり除去できるとは限らず、損益の改善が思うように進まない場合や、取引先の対応の変化、あるいは経済情勢の変化により、収益力が思うように上がらず業績が下振れすることもあり得ます。その下振れの程度によっては、再生計画に基づく弁済の履行に影響が生じる事態になることもあり得るでしょう。特に今回のコロナ禍のような場合、先の見通しが立て難く、再生計画の遂行に影響を及ぼすような事態も起こり得るかもしれません。
 この点、税理士の先生方は、毎月、顧問先企業の監査業務を行い、顧問先企業の状況を常に把握されていることが多いかと存じます。民事再生申立てをした顧問先企業については、再生計画の履行に問題が生じる可能性を把握したら速やかにそれに向けた対策がとれるよう、毎月の監査業務とあわせて、経営状態を継続的にモニタリングしていただくことが重要になります。
 そして、再生計画の履行に問題が生じる可能性を把握された場合には、経営者及び民事再生申立代理人と相談して、再生計画の不履行を回避する手段を模索したり、回避できない場合は債権者に対し支払期限の繰り延べ交渉を行ったり、場合によっては、再生計画を変更するなどの対策をとることになります。

3 事業計画を策定した税理士の責任

 では、事業計画が下振れして、再生計画どおりに履行できなくなった場合、事業計画を策定した税理士は、何か責任を問われるのでしょうか?
再生計画の前提となる事業計画は、民事再生手続による取引状況の変化等を織り込み、計画策定時点における現実的な計画でなければなりません。しかしながら、そうした現実的な計画を立てたとしても、事業計画の下振れリスクをゼロにすることは困難です。
 債務免除益に拘るタックスプランニング等、税務と会計の専門家としての当初の事業計画の立案に、明らかな基本的な誤りがあるような場合や意図的に誤った事実を記載したりしたような場合は別として、計画策定時点において実現が見込める事業計画を立てたが、その後の外部環境等の変化によって計画が下振れしてしまったような場合は、再生計画の不履行について、事業計画を作成した税理士がその責任を問われることはありません。
 とはいえ、上記のとおり、顧問先企業の状況を適時適切に把握して、早めの対応をすることが大切です。

4 まとめ

 再生計画策定時の現実的な事業計画の策定、再生計画認可後の継続的なモニタリングのいずれも、顧問税理士の先生方の活躍が期待される場面です。
 当グループは、税理士の先生方が顧問先企業の再生支援に関与することは、顧問先企業の再生可能性を高めると考えています。
 当グループのホームページ等をみて、少しでも、事業再生に関心を持っていただければ幸いです。