民事再生手続開始決定後の資産価値低下と清算価値保障原則

 こんにちは。
 事業再生支援グループメンバーの弁護士の鬼頭容子です。
 例えば今回の新型コロナの影響等の経済状況の変化やこれによる再生債務者の経営状況の悪化等によって、「財産評定」を行った後に、再生債務者の資産価値が低下することがあり得ます。そのため、民事再生手続開始決定時の清算配当率を上回る弁済を行う再生計画を策定し、これを履行するのが困難であると思われる場合(例えば、事業譲渡型の再生において、譲渡価額が当初の予定よりも下がった場合など)、どのように対処したら良いでしょうか?

1 再生計画案の弁済額と清算価値保障原則

 再生債務者は、清算配当率(破産配当率)を上回る弁済を実施できるように、再生計画案を策定する必要があります(清算価値保障原則)。これに違反すると、その再生計画案は、裁判所の認可を受けられず、手続は終了してしまいます。

2 清算価値保障原則の判断の基準時

 それでは、再生計画案が、清算価値保障原則を満たしているかどうかの判断は、どの時点の「清算価値」を基準として行われるのでしょうか?
 民事再生手続では、「財産評定」は、民事再生手続開始決定時の価値を評価することになっており、この評価に基づいて、財産目録及び貸借対象表を提出します。実務の運用上、この貸借対照表には、民事再生手続開始決定時の(予想)清算配当率を計算して記載することになっています。そして、民事再生手続では、手続の簡易・迅速のために、財産評定は、この1回限りとしています。
 したがって、原則として、清算価値保障原則についても、財産評定に基づく再生手続開始決定時を基準に判断することになります。民事再生手続において、再生債権者の協力の下、再生債務者自身が中心となって手続を進行し得るのは、再生手続開始時に再生債務者が破産した場合に比べて有利な弁済ができる見通しがあるからであり(申立直後債権者説明会においても、債権者に対し、そのような説明がなされることが多いです)、再生債務者には、再生手続開始決定時の清算配当率を維持することが求められているともいえます。
 もっとも、資産価値の低下が、例えば、デフレによる場合、あるいは今回の新型コロナの影響による営業縮小等、再生債務者の経営努力によっては避けられない状況が原因であるような場合にまで、開始決定時の清算配当率の維持を求め、民事再生手続を終了(廃止)させ、その後に破産手続に移行したとしても、こうした状況が解消されない以上、同破産手続における破産配当率は、さらに低下することになります。それでは、清算価値保障原則の趣旨である「債権者の一般の利益」にも反する結果になる、といえます。したがって、このような場合には、開始決定時を基準とする原則の例外として、再生計画案についての認可決定時を基準として、判断することが認められるべきではないでしょうか。
 清算価値保障原則の基準時に関する見解としては、原則として再生手続開始決定時とすべきであるとしながら、「認可決定時の(予想)清算配当率を下廻る場合には、資産の目減りの原因が不法なものである場合を除き、認可決定時の(予想)清算配当率を基準に清算価値保障の有無を判断することが許される」とする折衷説も主張されています。

3 対応方法

 したがって、再生計画案策定時に、資産価値の低下が明らかになり、弁済額が再生手続開始決定時の清算価値を下廻る見通しとなった場合には、その資産価値の低下の原因を明らかにし、資産価値の再評価を行い、財産評定の修正をするか、あるいは、時間的に再生計画案提出期限が迫っている場合には、再生計画案の中で、資産価値の低下と再評価について報告し、開始決定時の清算価値を下廻るとしても、実質的に債権者の一般の利益を害するものではないことを十分に説明するなどして、再生債権者と裁判所の理解を求め、粘り強く事業継続の可能性を探るのが良いでしょう(裁判所は、原則として、開始決定時の清算価値を上廻ことを求めます)。
 裁判所は、再生計画案を債権者への議決に付する旨の決定をする前に、監督委員及びその補助者である公認会計士の意見を求めますので、まずは、監督委員やその補助者である公認会計士と、よく協議することが必要です。 もっとも、新型コロナの影響による資産価値の低下をどのように評価するかは大変難しい問題があります。スポンサーが見つかり、再生計画外で早期事業譲渡が必要場合などには、スポンサーの評価が、明らかに不合理なものかどうかを、監督委員及び補助者と協議することになると思われます。

4 まとめ

  今回、ご説明したような問題は、民事再生法ができた当初から議論がされているものの、まだ、議論が尽くされておらず、明確な基準が確立していません。
  見通しがたちにくい状況で民事再生の手続をとる場合は、民事再生の経験のある専門家に依頼することをお勧めします。