コロナ禍における再生計画の策定上のポイント

 こんにちは。
 事業再生支援グループメンバーの公認会計士・税理士の林幹根です。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で業績が急激に悪化した企業において、新型コロナウイルス感染拡大が終息し、取引が以前の水準まで回復するまでの推移はだれも予測することが困難な状況ではないでしょうか。
 まさにこのコロナ禍において、『民事再生を申立てしたとしても、再生計画を策定できるものなのかな?』と疑問を感じることはありませんか?
 そこで、今回は、新型コロナウイルスの影響で将来の見通しが不透明な状況において民事再生の再生計画はどのように策定するのかについて説明します。
 ここで説明するポイントを押さえれば、これまで一生懸命に営んできた事業を継続させるための事業計画を立案できるようになります。
 また、このポイントをしっかり理解して応用できるようになれば、民事再生に関わらず、事業計画を策定するあらゆる場面で悩むことがなくなります。
 それでは、事業計画作成の手順とそのポイントについて説明していきます。

1 再生計画と事業計画

 再生計画とは、再生債務者が再生債権者に対し、再生債権をどの程度、どのような方法で弁済するのか、及びその弁済原資をどのように捻出するのか等を定めるものです。誰にいくら何年間で弁済するのか、つまりその前提としてどれほどの債務免除をお願いするのかという情報が載せられます。
 その再生計画を立案する前提となる計画が、事業計画です。再生債務者が事業を継続し、そこから得られる収益によって再生債権の弁済を行っていく場合には、この事業計画は再生計画の履行可能性を左右するとても重要なものになります。具体的には、事業計画はいわゆる損益計画(損益計算書)と収支計画(資金繰表)から構成されます。

2 事業計画作成の手順

 事業計画の作成は次の手順に従って行われます。
なお、「ストーリーで学ぶ初めての民事再生」P167~174も参考にしてください。

  1. まず、現在の業績を分析した結果を踏まえて、保守的に事業計画を立案します。あくまでもこれは再生計画を立案する前提となる事業計画であって、通常時の目標とするような事業計画ではありません。現実的な売上高や費用の発生額の予測を立て、無理のない実現可能な計画を立案します。
  2. その結果、算出された利益(ここでは再生債務の弁済原資ということになるので償却前利益やEBITDAと表現してもいいでしょう)に基づき再生債務の弁済金額を算出します。つまり、どの債権者にどのように(何回で)弁済するかという再生計画のベースを計算することになります。
  3. 再生計画のベースを立案した結果、債権者の同意が得られない可能性が高くなるような再生計画となってしまった場合は、事業計画の修正が求められます。つまりさらに利益を出す計画でなければなりませんが、実現可能な計画である必要があります。

3 ポイント

 新型コロナウイルス感染症の拡大が会社の事業活動に及ぼす影響は極めて甚大なものであり、拡大の収束が見えない現況下においては、今後の事業活動に及ぼす影響は予想することも困難な状況が生じているものと思われます。
 そのような状況において、上記①のとおり、無理のない実現可能な計画を立案する必要があります。
 当該状況においては、以下のような事項を考慮して事業計画を策定すると良いでしょう。

□取引先の状況をしっかり確認し、自社で十分な分析を行ったうえで、将来の見通しを立てましょう。ここで、取引先の回答をそのまま鵜呑みにせず、保守的に反映させていくことも良いでしょう。過度に悲観的に計画する必要はないかもしれませんが、楽観視は禁物です。

□ベースとなる事業計画を策定し、その計画値の達成可能性の程度(確率)を考慮して、当該事業計画をベースダウンさせたダウン・サイド・シナリオの事業計画を策定する方法もあります。この「ベースとなる事業計画」は、入手できる情報に基づいて策定した成り行きの事業計画となります。ここから、もし新型コロナウイルス感染症の影響が更に拡大した場合を想定し、例えば売上高を20%~50%を下振れさせた事業計画を策定します。仮にこのようにダウン・サイド・シナリオを描いたとしても何とか事業継続できる場合は、再生計画を立案する前提となる事業計画としては保守的に策定されていると判断されて、認可してもらえる可能性はあるでしょう。

4 まとめ

 なお、上記はあくまでも参考例です。この他の方法により新型コロナウイルス感染症の拡大の影響を反映しながら収益費用の現実的な予測を立て、無理のない実現可能な計画を立案していただければよいかと思います。
 民事再生が認可決定されてから間もなく破綻したということがないように、くれぐれも楽観的な計画の策定には気を付けてください。