皆さん、こんにちは。
事業再生支援グループメンバーの石井です。
今回の記事では、新型コロナウィルスの影響により、売上が減少し、資金繰りに悩む中小企業の経営者をサポートする、新型コロナウィルス感染症特例リスケジュール(以下「特例リスケ支援」といいます。)について解説します。
本記事を読まれている税理士の先生方の取引先の中には、資金繰りが悪化しており、すぐにでも金融機関に対して利息のみの支払への条件変更(リスケジュール)等が必要なかたがいらっしゃるかと思います。しかし、融資を受けている金融機関が複数いること等の理由により、中小企業の経営者では、金融機関相互の調整が難しく、資金繰り計画を作成することができないということが少なくありません。
このように、金融機関相互の調整ができず、資金繰りの見通しが立てられずに悩まれている中小企業の経営者をサポートし、資金繰り計画の策定及び金融機関との間の合意形成を中小企業再生支援協議会が支援する制度が、特例リスケジュールになります(「中小企業再生支援協議会」については、ブログ記事「2(3)中小企業再生支援協議会とは」をご参照下さい)。
今回の記事を読まれた税理士の先生方には、金融機関とのリスケジュールの調整に悩まれている中小企業の経営者の方から相談を受けた際には、特例リスケ支援の利用を提案していただければ幸いです。
それでは以下解説します。
1 特例リスケ支援は誰がどのような支援をしてくれるの?
特例リスケ支援は、中小企業再生支援協議会による中小企業の資金繰り支援策の一つです。
中小企業再生支援協議会は、新型コロナウィルス感染症の影響を受けた中小企業に対し、資金繰り支援として、以下の支援を実施しています。
(1)中小企業が現在負担している債務の負担軽減の支援
中小企業再生支援協議会は、支援を求めた中小企業の主要債権者(メインバンク)の支援姿勢を確認の上、全ての金融機関に一括して元金返済猶予の要請を実施します。
これにより、中小企業が現在負担している債務(既往債務)の負担を軽減することになります。なお、元金返済猶予の申請にあたって、中小企業再生支援協議会は、事業改善の可能性の検討を行わないことになっているので、迅速に元金支払猶予の申請を行うことが可能になっています。
(2)資金繰り計画策定についての金融機関調整
上記①の要請に各金融機関に応じてもらい、リスケジュールを行うためには、リスケジュールを前提とした1年間の資金繰り計画を作成し、全金融機関より承認を得ることが必要です。
中小企業再生支援協議会は、上記資金繰り計画を作成し、各金融機関より承認を得るために、中小企業と金融機関との間に入り、金融機関の調整の支援を行います。
なお、資金繰り計画作成にあたり、自己資金だけでは運転資金が不足する場合には、新規の資金調達も含めて金融機関調整の支援を行います。
(3)計画遂行状況のモニタリング
資金繰り計画について、全金融機関から承認をもらい、成立した後も、中小企業再生支援協議会は毎月の資金繰りのモニタリングをします。
モニタリングをする中で、経営者に対し、資金繰り計画達成に向けた助言を行います
2 どのような中小企業が利用できるの?
特例リスケ支援は、①窓口相談(第一次対応)、②特例リスケ計画策定支援(二次対応)の二つの手順を踏んで実施されます。
(1)窓口相談(第一次対応)
中小企業再生支援協議会は、中小企業の経営者からの申出に応じて、ヒアリングを行います。ヒアリングは、中小企業再生支援協議会に常駐する専門家であるプロジェクトマネージャーやサブマネージャーが対応し、必要書類(相談申込書、売上減の実態がわかる資料、借入についてわかる資料)も検証しならが資金繰りの見込等についてヒアリングを行います。
特例リスケ支援を利用できる中小企業は、新型コロナウィルス感染症の影響を受けて、一時的な業績悪化を来たし、以下のいずれかに該当する者を目安とするとされています。
- 最近1ヶ月の売上高が前年又は前々年の同期と比較して5%減少した者
- 業歴3ヶ月以上、1年1ヶ月未満の場合は、最近1ヶ月の売上高が、次のいずれかと比較して5%以上減少している者
a 過去3ヶ月(最近1ヶ月含む)の平均売上高
b 令和元年12月の売上高
c 令和元年10月~12月の売上高平均額
(2)特例リスケ計画策定支援(第二次対応)
窓口対応を行ったプロジェクトマネージャー又はサブマネージャーは、ヒアリングにより確認した相談企業の状況を基に、以下のいずれかの場合と判断した場合には、相談企業の承諾を得て、主要債権者(メインバンク)の意向を確認します。
- 今後6か月間の資金繰りの見通しが認められること
- 金融機関又は政策金融機関等から融資を受けることができれば今後6か月間の資金繰りの見通しが認められること
- その他、統括責任者又は統括責任者補佐が、相談企業の業種・業界の性質に応じ、相談企業の元金返済猶予の要請を行うことが事業改善に向けて有用であると判断した場合
主要債権者の意向を踏まえ、統括責任者は、特例リスケ計画策定支援(第二次対応)を決定します。決定後、リスケジュールの対象となる金融機関等の債権者に対し、元金返済猶予の申請をするとともに、特例リスケ計画策定への協力を要請します。
相談企業は、特例リスケ計画策定支援決定後、主要債権者と協力して、特例リスケ計画案を作成します。この特例リスケ計画案には、少なくとも、新型コロナウィルス感染症の影響が6か月間継続する場合を想定し、1年間の資金繰り計画を作成することになります。
相談企業が特例リスケ計画を作成したあと、対象債権者である金融機関に説明し、全ての金融機関より同意を取得することになります。この際、支援協議会が同意に向けて金融機関調整の支援をしてくれることになります。そして、対象債権者である金融機関全てから特例リスケ計画案について同意したことが確認できた時点で、特例リスケ計画は成立となります。
特例リスケ計画成立後、相談企業は、特例リスケ計画を達成するよう事業を継続していくことになります。
3 金融機関から融資を受けることはできますか?
特例リスケ策定支援は、自己資金だけでなく、「金融機関又は政索金融機関から融資を受けることができれば、今後6か月間の資金繰りの見通しが認められること」の条件を満たせば、行うことができます。
また、中小企業再生支援協議会は、相談企業の資金繰りの状況に応じて、制作金融機関等の新型コロナウィルス感染症の資金繰り支援を利用した融資(日本政策金融公庫及び商工組合中央公庫による新型コロナウィルス感染症特別貸付等)や主要債権者等による融資などによる資金調達に向けて、積極的に金融機関調整を行うこととされています。
したがって、特例リスケ策定支援の中で、金融機関から融資を受けることも可能です。
4 手続にかかる費用は?
第1次対応及び第2次対応にかかる費用は原則無料です。
ただし、特例リスケ計画を策定するにあたり、外部専門家(公認会計士、税理士、弁護士等)の協力を要請する場合は、その報酬を一部負担することが必要です。
5 特例リスケ計画成立までの期間は?
特例リスケ計画の策定は、事業計画策定支援の場合とは異なり、事業DD及び財務DDを行いません。そのため、第1次対応から短期間で特例リスケ計画を成立させることが可能となっています。
公表されている事案では、初回相談から特例リスケ計画成立まで20日間の事案があります。
いかがでしたでしょうか。
特例リスケジュールの手続について解説させていただきました。
この記事を読まれた先生方が、資金繰りに悩む中小企業の経営者から相談を受けた際、資金繰り支援策の一つとして特例リスケジュールを紹介していただくとともに、実際に特例リスケジュールにて進めていく場合に、資金繰り管理等で案件に関わって頂ければ嬉しいです。