粉飾決算と税理士の責任

 こんにちは。
 事業再生支援グループメンバーの弁護士の柚原です。
 民事再生手続を行う会社が粉飾決算を行っていた場合、税理士の責任が問われることがあるでしょうか。

1 よくあるケース

 民事再生手続を検討している会社が粉飾決算を行っていることがあります。会社代表者及び顧問税理士と民事再生手続の検討をしている際、顧問税理士から「粉飾決算を行っていると税理士としての責任が問われるのでは」との懸念が示されることがあります。
金融機関に対する詐欺などとして立件されかねない程度の粉飾に積極的に関わったような場合はともかく、税理士が直接関わっていなくても会社側が粉飾しており、顧問の税理士は気づいてはいたものの、企業のためを思い指摘をしなかったような場合、税理士の責任が問われるのでしょうか。

2 民事再生手続における粉飾決算の扱い

 この点、民事再生手続では、裁判所及び監督委員の関与のもと、再生会社は資産及び負債について改めて評価を行い(財産評定)、債権者に示します。この過程で粉飾の内容は明らかになります。そして、粉飾が明らかになれば債権者が再生会社を見る目が厳しくなることは否めません。再生計画案に賛成してもらうために、粉飾がない場合に比べて、粉飾の内容や期間を含めて一層丁寧な説明が必要となります。
 ただし、民事再生手続において粉飾の内容が明らかになることと、取締役個人のみならず税理士の責任が問われるかは別問題です。民事再生手続は粉飾の内容が明らかになる契機に過ぎません。問題は、刑事的は金融機関等が刑事告訴をする、捜査機関が捜査・立件するほどに悪質か、民事的には損害賠償請求が裁判所で認容されるだけの内実があるかです。そして、よほど悪質かつ税理士が積極的に関与した案件であればともかく、会社の粉飾程度では税理士の責任が問われることはほとんどないことはご存じのとおりであり、それは民事再生手続を行っても同じです。

3 まとめ ― ぜひ民事再生の検討を

 粉飾決算をしていたことよりも、粉飾があるために民事再生手続等の事業再生に踏み切れず、再生の機会を失ってしまうことのほうがはるかに大きな問題です。また、粉飾を行わざるを得なかったことは、民事再生手続等の抜本的な事業再生を行うべき一事情といえます。粉飾がある又は疑われる場合でも、それを理由に民事再生手続を行うことを躊躇する必要はありません。