いわゆる整理解雇はどのような場合に許されるのでしょうか?

こんにちは。
事業再生支援グループメンバーの弁護士の上山孝紀です。

今回の新型コロナウイルス感染拡大の影響で業績が急激に悪化した企業の中には、コスト削減の一環として、残業の削減、非正規従業員の雇止め、賃金・賞与カット(労働条件の不利益変更には、原則として、当該従業員の同意が必要です)のみならず、思い切った人員整理を検討している企業も少なくないと思います。
そこで、今回は、整理解雇の有効性が争いになった場合(従業員が解雇を不服として、会社を訴えた場合)、裁判所がどのように判断しているのかについてご説明します。

1 従業員を解雇することのリスク

 ご承知のとおり、我が国では、いわゆる解雇権濫用法理(労働契約法16条にて明文化)によって解雇のハードルはかなり高く、単に従業員全体の士気に悪影響を及ぼすというだけでなく、裁判所の判決によって後日無効となってしまうリスク(解雇無効の判決が出ると、その間に労務の提供を受けていないにもかかわらず、会社は解雇時に遡って計算した給与等を一時金として支払う必要がありますので、かなりの金銭的負担となります。)を十分に検討する必要があります

2 整理解雇の有効性の判断基準

 この点、整理解雇の有効性が裁判で争われる場合には、①人員削減の必要性、②人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性(既に配転や希望退職の募集等の他の手段によって「解雇」回避の努力を行っていること)、③被解雇者選定の妥当性(客観的かつ合理的な基準を設定し、これを公正に適用して対象者の選定を行うこと)及び④手続の妥当性(労働組合又は労働者に対して整理解雇の必要性等について納得を得るための説明を行い、誠意をもって協議を行うこと)の4つの事項について検討されることが一般的です。
 なお、近時の裁判例では、上記事項を全て満たすべき「要件」と解するのではなく、解雇権の濫用の有無を判断するにあたって検討すべき「要素」として位置付けているようです。

3 実務上の留意点

 上記①ないし③の「要素」については、民事再生中の会社であれば、それを満たすことはそれ程難しいことではないと思いますが、その前の段階にある会社の場合には、「解雇」が認められる段階には未だ至っていないと従業員から指摘(裁判所に判断)されないように、弁護士等の専門家に相談しながら慎重(段階的)に従業員のリストラを進めるべきです。まずは、残業の削減(上司の許可のない残業禁止を徹底するだけでもずいぶんと効果があるはずです。)や諸手当の見直し等から始め、それでも不十分であれば、適切な非正規従業員の雇止めによる雇用調整、そして賞与の削減や賃金水準の見直し、希望退職者の募集と段階的にリストラを進めていくべきです。
 なお、諸手当の見直しの際には、中小企業についても2021年4月から同一労働同一賃金ルールが適用されますので、雇用形態による不合理な待遇差が生じないように注意が必要です。
 また、④については、十分に従業員と話し合ってその理解を得られるよう努力することは勿論ですが、希望があれば再就職先のあっ旋(専門業者に依頼する方法もありますが、取引先や同業者に声を掛けてみると、意外と引き受けてくれることもあります。)なども考慮すべきです。

4 まとめ

 以上のとおり、整理解雇によるコスト削減の効果が大きいことは否定できませんが、上記のような解雇無効と主張・判断されるリスクを回避するために、そして従業員に対して急激な負担を強いることがないように、必要に応じた段階的なリストラに止めることが、結果的にスムーズな事業再生に繋がるように思います。