04: 支援協議会による第二次対応と再生計画の内容

・第二次対応では、税理士、公認会計士、弁護士、中小企業診断士等で構成する個別支援チームを組成し、財務DD・事業DDを実施します。
・財務DD・事業DDの結果をもとに、事業計画及び再生計画案を作成します。
・中小企業再生支援協議会の手続における再生計画案には、一定の数値基準があります。
・中小企業の経営者は、経営者責任・株主責任・保証責任を適切に果たす必要があります。

こんにちは。
事業再生支援グループメンバーの石井です。

 今回も、前回の記事に続き、中小企業再生支援協議会(以下「支援協議会」といいます。)による再生手続について解説します。

 前回は、支援協議会がどんな組織であるか、支援手続の全体像などの総論的な事項について解説しました。

 今回の記事では、支援協議会の再生手続においてメインとなる再生計画策定支援(第2次対応)の手続や作成する再生計画の内容について解説していきます。

 窮境の原因及び程度は相談に来られる中小企業ごとに違います。金融機関に対する返済を一定期間利息のみにする(「リスケジュール」といいます。)ことで、資金繰りに余裕ができ、事業を再構築可能な場合もありますし、さらに深刻で、金融機関からの借入が収益状況から見て過剰となっており、その状況を改善する必要がある場合もあります。

 再生計画策定支援では、公認会計士や中小企業診断士といった専門家(「外部専門家」といいます。)で編成した個別支援チームにより、財務・事業DD(デューデリジェンス)を行い、その中で判明した財務面・事業面での窮境の原因及び程度を分析・特定し、それを改善するための方策を盛り込んだ事業再生計画を策定することになります。
それでは以下解説します。

1 再生計画策定支援(第2次対応)の手続の流れは?

(1)再生計画策定支援の決定

 窓口相談(第1次対応)にて統括責任者(プロジェクトマネージャー)及び統括責任者補佐(サブマネージャー)が経営者からのヒアリングや資料の検証の結果、財務上の問題はあるものの、事業の収益性又は収益の改善の見通しがあり、再生計画の策定の支援が適当と判断した場合、支援協議会は、中小企業者の承諾を経て、主要債権者の意向確認をし、再生計画策定支援(第2次対応)の決定をします。この決定後、後述のとおり、個別支援チームを編成し、財務DD及び事業DDを実施することになります。

 また、支援協議会にて窓口相談実施後、再生計画策定支援に移行するか否か判断できない場合においても、当該企業の実態把握を目的に、財務DD及び事業DDを実施する場合があります(これを「1.5次対応」といいます)。この場合、支援協議会は正式に再生計画策定支援を決定する前の手続になりますので、中小企業側で手続を主宰していくことになるので注意が必要です。

(2)個別支援チームの編成及びDDの実施

 第2次対応決定後、支援協議会は、外部専門家である税理士、公認会計士、弁護士、中小企業診断士等で構成する個別支援チームを組成します。そして、多くの案件では、公認会計士・税理士による財務DD(資産負債及び損益の状況の調査分析)及び中小企業診断士による事業DD(事業面の調査分析)を実施することになります。

 財務DDでは、財務状況の現状分析(実態貸借対照表の作成)だけではなく、破綻原因及びその除去可能性や将来の収益力を分析し、過剰債務の額を把握することになります。
 支援協議会の全国本部では、財務調査報告書(財務DD報告書)のひな形を公表していますが、当該ひな形によれば、実質債務超過額や収益力などの7つの指標について把握することとされており、財務DDにおいて確認がされます。また、それ以外にも、実態財務諸表の推移等の分析による窮境原因とその除去可能性の調査、法的整理(破産手続)をした場合の清算価値(破産配当見込額)を算定します。

 事業DDでは、対象企業の状況によって様々ですが、内部・外部環境の分析やSWOT分析を中心に行い、問題点の指摘と改善策の提案がなされます。そして、事業DDの結果を踏まえて、事業計画の内容を検討することになります。

(3)事業計画及び再生計画案の作成

 個別支援チームによる財務DD及び事業DDの結果をもとに、事業計画及び再生計画案を、企業側にて作成します。
 再生計画案の作成にあたり、支援協議会では、債務者企業、個別支援チーム、金融債権者が参加する会議を開催し、合意形成を図っていきます。

(4)債権者会議(バンクミーティング)の開催

 再生計画案の説明、再生計画案の調査の結果、質疑応答、意見交換等を行うために、債権者会議が開催されます。
 この債権者会議で、金融債権者に対し、再生計画案について同意・不同意の意見を表明する期限を定めます。

(5)再生計画の成立・終了

 金融債権者全員から再生計画案についての同意が文書等で確認できた場合、再生計画は成立します。
 他方、金融債権者との間で再生計画成立の見込みがない場合や、再生計画案について金融債権者全員からの同意が得られなかった場合には、支援協議会による手続は終了します。

2 再生計画はどのような内容ですか?

(1)再生計画案への記載事項

 再生計画案は、支援協議会の常駐専門家や個別支援チームの作成支援を受けながら、債務者企業側で作成します。そのため、事案が複雑な場合等、経営者のみでは作成が困難な場合には、債務者企業が代理人弁護士を選任し、個別支援チームと協議の上、再生計画案を作成する場合もあります。
 再生計画案は、前項で解説しました、財務DD及び事業DDの結果を踏まえて作成することになります。再生計画案の記載事項は、基本要領において定められており、財務DD及び事業DDの結果に加え、資金繰り計画、債務弁済計画、金融支援の内容、経営者責任、株主責任・保証責任などの内容を盛り込みます。

(2)数値基準

 支援協議会における再生計画案は、原則として、以下の基準を充足する必要があります。
① 実質債務超過の場合は、5年以内を目処に実質債務超過を解消する内容であること
② 経常損失の場合は、概ね3年以内を目処に黒字に転換する内容であること
③ 再生計画の終了年度(原則として実質債務超過を解消する年度)における有利子負債の対キャッシュフロー比率が概ね10倍以下となる内容であること。

 上記数値基準を念頭に、事業再生計画案に盛り込む金融支援の内容について検討することになります。

(3)金融支援の内容

 再生計画案に金融支援(企業が事業再生を実現するために金融機関が行う支援内容)を盛り込む場合には、DDの結果に基づき、実態債務超過額、過剰債務額、事業の現状及び今後の収益力等を分析し、前述した数値基準に照らして金融支援の内容を検討することになります。
 上記検討を経て、①リスケジュール、②金利の低減、③DES、④DDS、⑤債権放棄、⑥追加融資等、企業の再生に必要かつ相当な金融支援を採用することになります。
 なお、⑤債権放棄を含む金融支援を要請する再生計画案の場合には、免除益課税の問題等の観点から、いわゆる「第二会社方式」を採用することが実務上多くなっています。第二会社方式とは、対象となる中小企業の事業のうち、収益性のある事業を事業譲渡等の手続により他の事業者(第二会社)に承継させ、不採算事業については中小企業に残し、特別清算等の手続により清算するスキームです。中小企業の事業再生の有効な手法として広く利用されています。
 ただし、事業譲渡や会社分割によって事業の根幹となる許認可等を承継することができない場合には、直接の債権放棄を検討することになります。
 金融支援を求める場合には、金融債権者の債権の保全(物的担保等により保全されていることをいいます。)・非保全の状況に応じて、衡平性を有することが求められます。

3 経営者はどのように扱われますか?

 中小企業の経営者は、経営者であると同時に、株主であり、かつ、金融機関からの借入について連帯保証人となっています。再生計画案において金融支援を求める前提として、中小企業の経営者は、経営者責任、株主責任及び保証責任を適切に果たす必要があり、再生計画案の内容としても盛り込むことになります。

(1)経営者責任

 中小企業の経営者は、窮境原因に強く関係していることが多く、窮境原因を解消する 観点から退任すべきとの考え方があります。他方で、中小企業の場合、事業を運営するにあたり、経営者の能力・ノウハウが不可欠であることも少なくありません。この場合、退任を求めると、事業の再建にマイナスとなってしまいます。
 そのため、案件ごとの個別具体的な事情に応じ、客観的かつ合理的に責任を取っているかの観点から経営者責任の内容を検討することになります。退任以外の経営者責任の方法として、会社に対する貸付金の放棄や、役員報酬の削減、私財を会社の運転資金に提供する等の方法が考えられます。

(2)株主責任

 金融支援として、債権放棄等を要請する場合、その企業は債務超過であり株式の価値はゼロです。そのため、既存の株主の株式を消滅させる等、株主責任を明確化することが求められます。もっとも、今後再生を進めていくにあたっての経営者の構成も考え、ガバナンスが機能する株主構成にするという観点も重要です。
 なお、第二会社方式の場合、旧会社は清算され、法的手続において株式価値はゼロとなるため、株主責任は果たされたことになります。

(3)保証責任

 金融支援として債権放棄等を要請する場合、保証人個人の資産により保証債務を履行する等、保証責任を果たすことが求められます。保証責任については、支援協議会において保証債務の整理の支援事業の利用が考えられます。 

 支援協議会では、これまで解説しました中小企業の再生支援だけでなく、中小企業の経営者の保証債務について、「経営者保証に関するガイドライン」(以下「経営者保証GL」といいます。)に基づく保証債務の整理の支援業務も行っています。
 なお、経営者保証GLの具体的内容については、解説した別の記事をご参照下さい。

 支援協議会による保証債務の整理の支援業務には二つの類型があります。
 一つは、これまで解説した再生支援業務と並行して、支援協議会の手続において保証債務の整理も行う手続であり、これを「一体型」といいます。一体型の手続の場合、保証人である経営者からの弁済計画案を、企業の再生計画案に盛り込むことが原則となっています。
 もう一つは、企業については、法的整理手続(破産等の清算型の手続も含みます。)や支援協議会以外の準則型私的整理手続を選択し、経営者の保証債務の整理についてのみ支援協議会にて行う手続であり、これを「単独型」といいます。手続の流れは、基本的に一体型の場合と同じですが、企業の手続が支援協議会以外の機関にて行われているため、連携を図る必要があります。また、企業と経営者の手続が別々であることから、一体型の場合よりも、保証人である経営者及び支援専門家(一般的に弁護士に依頼することになります。)が、事前に金融機関との丁寧な調整をしておく必要があるといえます。

4 まとめ

 いかがでしたでしょうか。
 今回の記事は、中小企業再生支援協議会のメインの手続である再生計画策定支援(第2次対応)と再生計画案の内容などについて解説しました。
 この記事を通じて、中小企業再生支援協議会における再生計画策定支援及び再生計画案のイメージを少しでも掴んでいただければ幸いです。
 また、、記事を読まれた先生方が、今後事業再生についての相談を中小企業の経営者から受けた際に、支援協議会の窓口相談の利用をご提案いただけると嬉しいです。

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