01:事業再生の各種スキーム

・事業再生にも、いろいろな方法があり、それぞれに手続・費用・スケジュール等が異なります。
・事業再生の手法には、大きく分けて私的整理と法的整理があります。
・手続選択は、それぞれの手法のメリット・デメリットを踏まえた総合判断になります。

事業再生にも、いろいろな方法があります。

事業再生支援グループの弁護士の眞下寛之です。
企業の事業再生と一言で言っても、実際にはいろいろな方法があり、その手続・発生する費用・スケジュール等はどのような方法を選択するかによって大きく異なります。このページでは、我々弁護士が関与する企業の債務整理手続のうち、いわゆる「再生型」(事業を廃止することを前提とするのではなく、事業継続して再生していくことを前提とするものです。)の手続を紹介いたします。

1. 私的整理と法的整理

私的整理は、民事再生や会社更生等の法的倒産手続によることなく、債務の整理を行う手続です。私的整理には、後ほどご説明しますが、法令や公表されている準則に基づいて進められる場合(このような場合を、ちょっと難しい言葉ですが、「準則型私的整理」といいます。)と、そのような準則に基づかずに適宜の方法で行われる純粋私的整理とがあります。
他方、法的整理には、民事再生法という法律に基づいて行われる民事再生と、会社更生法という法律に基づいて行われる会社更生があります。

2. 私的整理と法的整理との選択の基準

私的整理のメリット・デメリット

私的整理には、
①仕入先や外注先等との商取引については従前通り継続しつつ、対象債権者を金融機関に限定することにより、債務について一律に弁済禁止の効力が及んでしまう法的整理と比較して事業価値が毀損することを避けやすいこと、
②一般的には、私的整理を開始したという事実は公表されないため、「倒産」というレッテルを貼られるリスクを回避できること、
③手続が法律に規定されている法的整理と比較して、事案に応じた柔軟な手続をとりやすいこと、
等のメリットがあります。

他方で、私的整理には、
①対象債権者の全員の同意が必要であり、不同意の債権者がいる場合には不成立となってしまうこと、
②そのため、実務的には、債務の免除(債権カット)を含む再生計画を提示するケースにおいては、債権者の同意を得ることが容易でない場合があること、
③手形の不渡りが目前に迫っている等、運転資金がショートしてしまう場合や、金融債務の弁済猶予を得るのみでは資金繰りを改善することが困難な場合には、私的整理を行っても解決を図ることはできないこと、
等のデメリット・限界もあります。

法的整理のメリット・デメリット

なお、法的整理のメリット・デメリットについては、上記にご説明しました私的整理の裏返しといえます。

すなわち、メリットとしては、
①債権者の全員の同意がなくても、一定割合の同意があれば計画が認められることとされており、例えば民事再生であれば、議決権者の過半数及び議決権の総額の2分の1以上の同意があれば、再生計画案が可決されます。また、②金融債務の弁済猶予を得るのみでは資金繰りを改善することが困難な場合には、弁済禁止の保全処分を得て全ての債務の弁済を停止することが手続の中に織り込まれており、これらの手続を通じて事業の再建を図ることができます。

デメリットとしては、
①倒産手続が開始された場合、法律上の効果として手続開始決定までに発生した債務について一律に弁済禁止の効力が及び、仕入先や外注先等の全ての債権者に対する弁済を停止することにより、事業価値が毀損することが避けられないこと、
②全ての債権者に倒産手続が開始されることが通知され、民間の信用調査会社等によってその事実が公表されることにより、「倒産」のレッテルを貼られるリスクがあること、
等が挙げられます。

手続選択は総合判断

私的整理と法的整理のどちらを選択するかについては、以上のメリット・デメリットを踏まえて、それぞれの事案における会社の置かれた状況、資金繰り、業態その他様々な事情を総合判断して決定することになります。

3. 私的整理の手法

私的整理には、法令や公表されている準則に基づいて進められる準則型私的整理と、そのような準則に基づかずに適宜の方法で行われる純粋私的整理があります。

準則型私的整理

(1)私的整理に関するガイドライン

2001年9月に私的整理に関するガイドライン研究会によって策定され公表された準則であり、金融業界の紳士協定として機能しているものです。主要債権者(メインバンク)が債務者と連名で「一時停止の通知」を対象債権者に送ることにより手続が開始されます。比較的規模の大きい企業を対象とするもので、近時はあまり事例がありません。

(2)事業再生ADR

旧産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(現在の産業競争力強化法)によって規定された準則型私的整理手続です。裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律に基づく法務大臣の認証を受け、かつ産業競争力強化法に基づく経済産業大臣の認定を受けた事業再生実務家協会が特定認証紛争解決事業者として手続を受理し、利害関係のない弁護士・公認会計士等の専門家が手続実施者として手続を執り行います。

(3)中小企業再生支援協議会

旧産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(現在の産業競争力強化法)に基づいて中小企業の再生支援業務を行うものとして認定を受けた組織で、全国の都道府県の商工会議所等に設置されています。手続的負担や費用の面について、中小企業の特性に配慮した手続となっているのが特徴といえます。

(4)地域経済活性化支援機構(REVIC)

旧株式会社企業再生支援機構法(現在の株式会社地域経済活性化支援機構法)に基づいて設立された株式会社であり、雇用機会の確保に配慮しつつ、地域における総合的な経済力の向上を通じて地域経済の活性化を図り、併せてこれにより地域の信用秩序の基盤強化にも資するよう、金融機関・地方公共団体等と連携しつつ、有用な経営資源を有しながら過大な債務を負っている中小企業者その他の事業者に対して金融機関等が有する債権の買取りその他の業務を通じた当該事業者の事業の再生を支援し、地域経済の活性化に資する活動を行うことを目的としています。

(5)特定調停

特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律に基づき、裁判所にて行われる私的整理手続です。複数の債権者に対する調停手続を同一期日に指定して、債務整理に向けた協議・調整を行うことができ、一部の債権者が同意しない場合には、民事調停法第17条に基づく「調停に代わる決定」がなされる場合もあります。

純粋私的整理

法令や公表されている準則に基づかず、適宜の方法で行われる私的整理であり、対象債権者の範囲、手続の進行、再建計画の内容等について柔軟に取り組むことができることがメリットといえます。他方で、手続的な基準がないため、債権者に対する透明性、公平性を確保するよう注意して取り組むことが必要となります。

4. 法的整理

法的整理には、民事再生法という法律に基づいて行われる民事再生と、会社更生法という法律に基づいて行われる会社更生があります。
民事再生手続については、「民事再生」ってなに?どんな手続なの?のページで具体的に説明していますので、そちらをぜひ参照ください。
会社更生手続は、債務者の事業用資産に設定されている担保権は、更生担保権として手続外での権利行使を禁止されるため、担保権者の協力を得ることが困難なケースでも手続の利用可能性があること、従来の経営陣は原則として経営権を失い、裁判所によって選任された更生管財人が事業の経営及び財産の管理・処分の権限を有することになること、等の特色があります。

5. 手続選択の実際

現実の事案においては、手続に関与する弁護士が相談者(対象となる企業)から聴き取りをし、かつ開示を受けた資料を精査した上で、相談者に対して手続選択に関する説明を行い、方針が決定されることになります。
手続選択の具体例については、事業再生支援グループ著「ストーリーで学ぶ初めての民事再生」(中央経済社)をご覧ください。
また、それぞれの会社についてどのような手続を選択するのが良いのかについては、ぜひ、手続に精通した弁護士にご相談ください。

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