02:再生の相談のタイミングと手続選択

・再生に関する相談のタイミングは早いにこしたことはありません。
・相談のタイミングは、以下の3つが考えられます。
 ① 通算1年間のリスケジュールを行ったものの約定弁済を再開できない状況が続いた時点(少なくとも80%以上の回復をしていない時点)
 ② 資金ショートが近い時期に迫っている段階
 ③ 取引業者への弁済が遅延し、弁済目途が立たず、取り立て対応により事業に多大な損失が発生している段階
・スキーム選択を左右する2つの重要な要素は、「資金繰りの状況」と「実態収益力とB/Sの棄損度」です。

 事業再生支援グループの弁護士の小川洋子です。
 資金繰りに余裕がなくなると、資金の調達に時間をとられてしまい、財務状況の改善が先延ばしになる企業は少なくありません。しかしながら、資金ショートが目前に迫った段階で専門家に相談しても、事業再生の手段は極めて限定されてしまいます。
 いいかえれば、再生に関する相談のタイミングは、早いにこしたことはありません。早ければ早いほど、スキームが選択の幅もひろがり、また、再生できる可能性も高くなるからです。
 とはいっても、なんのきっかけもなく、経営者の方に「経営改善のために専門家への相談すること」を提案することもできませんよね。
 そこで、ここでは、再生に関する相談のタイミングと、各段階でどのようなスキームが選択できるのかについてご説明いたします。

1 再生に関する相談のタイミング

① 通算1年間のリスケジュールを行ったものの約定弁済を再開できない状況が続いた時点(少なくともリスケジュール時の計画の80%以上の回復をしていない時点)

 財務状況が悪化する原因には様々なものがありますが、財務状況が悪化したときに、企業がまずやならければならないことは、現状の把握です。
 そのためには、まず資金繰り表を作成する必要があります。
 その後、試算表と資金繰表で現状を把握しながら、財務状況が悪化した原因を把握し財務状況の改善を行っていくことになりますが、その段階で、資金繰りの円滑化を図るため、金融機関に対する支払いを暫定的にリスケジュールしてもらうことがよくあります。
 しかし、そのようなリスケジュールは、通常、一定期間、元本の一部または全部の弁済を猶予してもらうだけの効果しかなく最終の返済期限は変更されません。つまり、一時的に、財務体質改善のための猶予期間が与えられるだけであり、当該猶予期間内に財務体質の改善を図ることができなければ財務状況の正常化を図ることはできないのです。残念ながら、リスケジュールの更新時までに改善ができない企業も散見されます。
 そこで、私たちは、再生に関する相談のタイミングの1つ目は、通算1年間のリスケジュールを行ったものの約定弁済を再開できない状況が続いた時点(少なくとも80%以上の回復をしていない時点)と考えています。
 このような段階においては、仮にリスケジュールの更新ができたとしても財務状況の改善を図ることは極めて難しく、安易なリスケジュールの選択はかえって事業の毀損につながりかねません。また、そもそも、金融機関側にリスケジュールに応じてもらうことそれ自体が難しいと思われます。

② 資金ショートが近い時期に迫っている段階

 再生に関する相談のタイミングの2つ目は、資金ショートが近い時期に迫っている段階です。
 金融機関などの債務の割合が低く、リスケジュールによる資金繰り改善の効果があまり見込めない企業の場合は、なりゆきの資金繰り表(P/L改善やB/S改善などの財務改善を行わない前提での資金繰り表)に基づくと1年以内に資金がショートすることが判明した場合は、再生を検討する必要があります。
 これに対し、金融機関などの債務の割合が比較的高い企業の場合は、資金繰りが悪化したとしても、まずはリスケジュールを試みることにより財務改善のための猶予期間を確保できるかどうか、そのうえで財務改善の可能性があるかどうかを検討することになります。
 すなわち、正常に約定弁済をしていた企業で、リスケジュールによって資金ショートが回避でき、一定期間経過後正常化を見込めるような場合であれば、直ちに再生を検討する必要はありません。
 既にリスケジュールをしている企業で、なりゆきの資金繰り表(P/L改善やB/S改善などの財務改善を行わない前提での資金繰り表)に基づくと6か月以内の資金ショートすることが判明した場合は、再生を検討する必要があります。

③ 取引業者への弁済が遅延し、弁済目途が立たず、取り立て対応により事業に多大な損失が発生している段階

 再生に関する相談のタイミングの3つ目は、取引先業者に対する債務の弁済が遅延しており、弁済の目途が立たず、取り立てへの対応等により、正常な事業の継続が困難になっている段階です。
 リスケジュールを何度も更新している企業はしばしば取引先業者に対する債務の弁済が遅滞していたり、金融機関以外のところから借入をしている場合が見受けられますが、そのような段階に至っている場合、短期間の間に事業の棄損が進む可能性が高いため、そのような事象を把握したら直ちに、再生を検討する必要があります。

まとめ

このように、再生に関する相談のタイミングとしては、以下の3つのタイミングが考えられます。

① 通算1年間のリスケジュールを行ったものの約定弁済を再開できない状況が続いた時点(少なくとも80%以上の回復をしていない時点)

② 資金ショートが近い時期に迫っている段階

  • 金融債務の割合が低い企業・・・1年以内の資金ショートのおそれ
  • 金融債務の割合が高い企業
    • リスケ中の企業:6か月以内に資金ショートのおそれ
    • 正常に弁済していた企業:リスケジュールによっても資金ショートが回避できない

③ 取引業者への弁済が遅延し、弁済目途が立たず、取り立て対応により事業に多大な損失が発生している段階

2 各段階でどのようなスキームが選択できるのか

 事業再生のスキームには、様々なものがありますが、各スキームの特徴等から、当該企業の特性や、企業がおかれた状況等により、選択できるスキームが異なります。ここでは、上述した、再生に関する相談のタイミングによって、選択できるスキームがどう変わってくるかについて簡単に説明しておきたいと思います。

資金繰り状況のひっ迫度合い

 スキームの選択の幅に最も大きな影響を与えるのは、資金繰りの状況です。私的整理は、どんなに迅速に手続が進む場合でも、債権者との合意の成立までに3,4カ月、事例によっては1年くらいを要します。このため、金融債務の弁済を停止したとしても半年以内の資金ショートが避けられない場合は、私的整理の選択は難しいと言わざるを得ません。
 もっとも、自己資金だけでは資金ショートが避けられないが、スポンサーによる支援を受けることにより資金ショートが回避できる場合は、私的整理による再生の可能性があります。

実態収益力とB/Sの棄損度

 次に、スキームの選択の幅に影響を与える要素としては、リストラを含む経営改善策を講じた場合に見込まれる当該企業の実態収益力を前提として、金融機関の債務のみをカットすることで財務状況の改善を図ることができるのかどうかです。
 私的整理は対象債権者が金融債権者に限定されているため商取引債権者を保護し事業価値の棄損を防ぐことができるという点が大きなメリットですが、他方で、B/S改善の効果が金融債権者に限定されるため、当該企業の実態収益力との関係で商取引債権者に対する債務額が過大な場合は、私的整理では十分な財務改善をはかることができません。

スキームの選択

 以上で述べたように、第1に「資金繰りの状況」、第2に「実態収益力とB/Sの棄損度」から、スキーム選択をしていくこととなるため、1③の取引業者への弁済が遅延し、弁済目途が立たず、取り立て対応により事業に多大な損失が発生している段階においては、私的整理による再生は困難な場合が多いと思われます。
 他方、1①の通算で1年間のリスケジュールを行ったものの金融機関からの借入金の約定弁済を再開できない状況が続いた時点(少なくとも80%以上の回復をしていない時点)、1②の資金ショートが近い時期に迫っている段階においては、「資金繰りの状況」、「実態収益力とB/Sの棄損度」によりますが、私的整理による再生の可能性があります。
 もっとも、実際に再生を進めていくにあたっては、「資金繰りの状況」、「実態収益力とB/Sの棄損度」のほか、経営者又は後継者の再生への意欲・覚悟・能力の有無、従業員、取引先、金融機関等の利害関係者の協力見込みなどもスキーム選択にあたっての重要な要素となります。

3 再生に関する相談のタイミングは早いにこしたことはない

 ここまで、再生に関する相談のタイミングと、各段階でどのようなスキームが選択できるのかについて説明させていただきました。
資金繰りが苦しい状況が続けば、多くの場合、B/Sの棄損が進みます。
 冒頭に述べたように、早ければ早いほど、多くのスキームが選択できる可能性があるのは明らかです。まだ、この段階になっていないから相談するのは早いと考えるのではなく、兆候が少しでもみられたら、早めに相談されることをお勧めします。

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